きみと、春が降るこの場所で
「釣り堀とか黒ヒゲとか、オセロもあるから全部やろうね」
遊び道具しか入っていない箱。いわゆる玩具箱からジェンガを引っ張り出した詞織は慎重にテーブルの上にタワーを作る。
「詞織ってさぁ…こういう遊び好きだよな」
早速真ん中辺りのパーツをひとつ抜き取って、上に重ねる。
「好きだよ。楽しいもん」
1番下のど真ん中のパーツを押し出した詞織は平然と言ったけれど、少し意味が違う。
「年相応じゃねえなって話をしてんの」
段々ペースを早めながら、交互にパーツを抜いては重ねていく。
まだまだ危なげはない。詞織が下のパーツばかり攻めるのをやめてくれたら尚更いいのだけれど、そんな気はないらしい。
「そうかもね」
てっきり笑いながら怒ると思っていたのに、詞織は真顔で言って、パーツを引き抜く手を止めた。
この顔。ずいぶん前に見た顔と同じだ。何にも動じない顔。
今なら多分、何を言っても右から左へ流すように、淡々と答えるんだろう。
「遊びでも人付き合いでも、難しいのは嫌だよ。相手の目を見て話す事の意味が変わってしまったり、触れる前にトゲを怖がる事って、すごく勿体ないと思う」
ほら、まただ。
何でそんな言い回しをするんだよ。
まるで、そんな経験をした事があるような、言い方。
それがまた、俺も身に覚えのある事だから、背筋に鳥肌が立つ。