きみと、春が降るこの場所で
けれど、詞織は違う。
認めたくないけれど、気付かないフリをしていたいけれど。
詞織は、俺とは違う未来を描いているんだろ?
諦観からではなくて、それがほぼ定まってしまっている未来だから。
詞織はそこに、安心を覚えたんだ。
「朔も、こわい…?」
何かに怯えるように、何かに不安を感じたように、顔を上げた詞織の瞳は揺れていた。
「おう、怖い。一生子供でいたいくらいな。ラクしてたいわけじゃねえのに、それでも今が変わるのはこえーよ」
「朔も……」
じっくりと噛み締めるように言いながら、テーブルを迂回して俺ににじり寄る詞織に、じっと視線を落とす。
やがて、距離はかなり縮まった。
お互いの吐息がかかる、そんな距離まで。
「一緒?」
「そうだな」
「置いていかない?」
「おう。俺は詞織の事大好きだから、離れらんねえよ」
余裕ぶって、つい口を滑らせた。
ガラにもなく、顔が熱くなるのを感じたけれど、詞織は俺を見上げて瞬きを繰り返すだけ。
「わたしもだいすきだよ、朔」
満面の笑みを浮かべられて、どうしようもなく頭を抱えたくなった。
ある意味伝わっていなくて良かったと安心したけれど、それもどうなんだよ。
まあ、詞織に大好きって言われたやつなんて、彰さんくらいしかいないだろうしな。
いいんだ、別に。
伝わっていなくても、俺が今、詞織に伝えたいと思って口にしただけだから。
だけれど、確かに、見えてしまった。
背中を向けた詞織の、微かに赤みを帯びた頬が。