きみと、春が降るこの場所で





玩具箱に入っていたボードゲームやテーブルゲームを片っ端からやり尽くして、いつの間にか寝落ちをしていたらしい。


起きた時には窓の外が薄暗くなっていて、リビングに行くと既にテーブルには料理が並んでいた。


「すんません、本当に。美味いです彰さん」


仕事終わりで疲れているはずの彰さんに、こんな手の込んだ料理を作らせるなんて、俺はなんてことをしてるんだ。


一緒に寝落ちたはずの詞織は彰さんの手伝いをしていたというし、先に起きたなら起こせよと文句を言ったところ

『気持ちよさそうに寝てたから、ごめんね』

と、数時間前の悄気はどこに行ったのかと呆れるくらいに元気になっていた。


「いやいや、昨日の朔くんの料理に張り合ってみただけだよ」


徳利を片手に上機嫌に笑う彰さんはほろ酔い状態。

食事時に、それも家族以外の人間がいる前で顔を赤くしていいのかと最初は思ったけれど、今はそれが自然になってきているのだから不思議だ。


詞織が俺用に選んだという茶碗やコップも、田山家にすっかり馴染んでいる。


「お風呂入ってくる」


俺と彰さんが談笑をしながらゆっくりと箸を動かしている間に、食後のお茶までしっかりと飲み干した詞織がリビングを出て行く。

彰さんが、「いってらっしゃーい」と、ちょうどテレビに映っているオネェ風に見送るから、口に入れていた春巻きを噴き出しそうになった。


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