きみと、春が降るこの場所で
普段はシャワーで済ませているせいか、長く浸かっていたわけではないのに脱衣所に出るとくらりと目眩がした。
服を着て、雑に髪を拭きながら、リビングに顔を出して彰さんに声をかける。
風呂から出たら片付けをしようと思っていたのに、彰さんが全て済ませてくれたらしく、テーブルの上には冷えたビールの缶がポツンと置かれていた。
「あ、朔くん。枝豆いるか?」
「いや、いいです。彰さんあんまり飲み過ぎないようにしてくださいね」
明日は仕事が休みだと言っていたけれど、飯の時点で顔が赤かったから、少し心配だ。
枝豆を茹でているあたり、これからが本番という事なのだろうけれど。
「そうだね、程々にしておくよ。おやすみ、朔くん」
「おやすみなさい彰さん」
ドアを閉めて、階段を上る。
この家は通気性がいいから、風がよく通るし、夜はエアコン要らずだ。
それどころか、少し肌寒い。
俺はどこで寝ればいいのか、聞くのを忘れていた。
詞織の隣の部屋が空いていると言っていたし、多分そこでいいのだろうけれど、まだ9時過ぎ。
詞織と遊んでやろう。どうせ暇だから。
「あ、朔。お布団敷いたよ」
「………は?」
もう見慣れた詞織の部屋。その真ん中に敷かれた見慣れない布団。
いや、泊まるのは初めてだから、見慣れていたらおかしいのだけれど、そういう問題ではなく。
ついマヌケな声を出して部屋の前で棒立ちをしていると、ぐい、と手を引かれてドアが閉まった。