きみと、春が降るこの場所で





翌朝、控えめな目覚ましの音で、2人同時に目が覚めた。

空は薄ぼんやりと明るいのに、太陽は山間の向こう側をゆっくりと昇る途中で、まだその姿を見せていない。


いつものカーディガンではなく、パーカーを羽織った詞織の後ろをついて行きながら、両腕を抱いて擦り合わせる。


早朝から外へ出る気はなかったから、上着は持ってきていなかった。

詞織のパーカーやジャンパーではあまりに小さ過ぎるから要らないと断ったけれど、せめて肩に羽織れるものは借りるべきだったと、ほんの少しの後悔。


「こっちだよ」


山沿いの小道を歩いて10分。

用水路を跨ぐ木の橋を越えると、一層草木が茂る山道に突入した。


「なあ、ここって入っていい所なのかよ」


「うーん?わかんないけど、秘密の抜け道みたいな」


枯れ枝を踏み締めたような跡をたどっているから、道ではあるんだろう。

ついて行けば何とかなるか、と楽観的な考えでいられるのは、あまり頭が回っていないせいだ。


潰れそうになる瞼を何とかこじ開けて、詞織の背中を見失わないように、歩幅を広げる。


そんなに急がなくても、誰も何も逃げねえよ。


そもそも、低血圧のケがある俺に寝起きから歩かせようってのがおかしい。

詞織が話しかけてこないと俺から話すのは億劫過ぎて、会話が何もない。


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