きみと、春が降るこの場所で
「あ、よかったぁ。咲いてる」
生い茂る草木が途絶えて、一気に視界が開ける。
朝日のやつはタイミングが悪くて、まだ山の向こうにいるけれど、そんなのどうだっていい。
ただ、目の前の景色は圧巻だった。
「すげえ…」
ジャイアント並に背の高いひまわりが、辺り一面を覆い尽くしている。
シパシパする目を擦って、端から端まで、ゆっくりと視界を巡らせた。
「ひまわりってこんなにデカいっけな…」
「ジャイアントひまわりだよ」
あ、やっぱりジャイアントか。
すっげえ背が高くなるやつ。3メートルとか伸びるんだよな。それに花もかなり大きい。
「見たかったの、ひまわり」
斜め上を向くひまわりを眩しそうに見上げて、風に揺れる木々の音にかき消されそうなほどか細い声で詞織が呟いた。
俺に言ったわけじゃないのだろうけれど、そうかと返事をすると、うん、と返ってきた。
朝日が顔を出す。俺はひまわりよりも、生まれ変わって一際輝く太陽に目を奪われて、詞織の姿を見失った。
気が付いた時には、詞織はひまわり畑の中に駆け出していて、すぐに見えなくなる。
「詞織!!」
別に、たかがひまわり畑だ。
どこかしらに出てくる詞織を捕まえればいいのに、俺は迷わずにひまわりの大輪の中へ飛び込んだ。