きみと、春が降るこの場所で


『ちょっと鼻声に聞こえるのって電話だから?』


「いや、悪い。風邪引いたから今日明日は家で寝てるわ。ごめんな」


夏風邪は長引くというし、今日や明日で熱が下がるとは思えないけれど。


明後日の約束は、何となくしたくない。


『そっかあ。お大事にね』


あれ、もっと寂しがると思ったのに、普通だな。

早く良くなってね、とか期待してた。


「詞織、自分で昼飯作るなら包丁には気をつけろよ。お前危なっかしいから」


たまに一緒に調理をするから、簡単なものならもう1人でも作れるだろ。

ただ、手付きが危うかったり、調味料の加減がわからないから、心配ではある。


『大丈夫だよ。朔も栄養あるもの食べて、早く良くなってね』


「は、え、待て。今なんて」


『ばいばい』


待てって言ってんのに切るんじゃねえよ、馬鹿詞織。


「やっべ……嬉しい」


通話終了画面のまま、携帯を放り投げてベッドに倒れ込む。


早く良くなってね、だってよ。

気合で熱もなんもすぐに治してやるよ。


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