きみと、春が降るこの場所で
ふん、と足を組んでふんぞり返っていると、テーブルに苺ジャム山盛りのトーストとカフェオレが置かれた。もちろん、ホットの。
「…食欲ねえよ、くそ」
「だろうな。顔真っ赤だぞ。風邪か」
「うるせえ」
向き合わないように斜め前の椅子に座ったのに、わざわざ目の前に座るなよ。
だいぶ冷えたであろうブラックコーヒーをゆっくりと喉に流し込みながら、兄貴が俺をジッと見る。
「お前さ、彼女でも出来たの」
「別に。兄貴には関係ない」
「でも、最近毎日出かけてる理由って、女だろ」
探るような目。その瞳に見透かされないように、苺ジャムの赤を見つめ続ける。
詞織の事は、家族には話したくない。
兄貴は両親よりはマシなのかもしれないけれど、ある意味1番バレると困る人間だ。
俺と兄貴はひとつしか年が違わないから、お互いに何でも聞き合って踏み込んできた、それが今は仇になるなんて思いもせずに。
「お前は頭が悪いし、要領も悪い。彼女はしっかりした人を選ばないと、お互いに辛いぞ」
詞織を、貶されているような気がした。
会った事もないくせに、詞織がどんな人間か、知りもしないくせに。
俺に頭が悪いだとか要領が悪いだとか、そんな事が言いたいならいくらでも言えばいい。
ただ、勝手に詞織の事をわかったフリなんて、するんじゃねえよ。
腹の奥が煮えるような苛立ち。
涼しい顔で、わかったように言う兄貴が心底ウザくて、憎い。
それに、何より。
黙り込んだまま、反論も出来ない自分が情けない。