きみと、春が降るこの場所で


グッと膝の上で拳を握り締めていると、兄貴が落胆したようなため息をついた。


「朔は勘違いをしているみたいだけど、父さんも母さんもお前の出来が悪いから叱るわけじゃないよ。ただ心配をしているだけだ、お前の今と将来を」


「そんなん、親父の保身のためだろ」


「まあ、それもあるな。けど、全部人のせいにするな。期待されていたのに、裏切ったお前のせいだって事を忘れるなよ」


空になったコーヒーカップを置き去りにして、兄貴がリビングを出ていく。

程なくして、玄関から出て行く音も聞こえた。


「くそが…!」


思い切り、テーブルに拳を叩き付けようとして、やめた。

カフェオレが零れて、苺ジャム塗れのトーストがひっくり返るだけだ。


後片付けをするのは俺なんだから、そんな手間をわざわざ作る必要はない。


イライラする。むしゃくしゃして、何かで発散しないと、爆発してしまいそうなくらい。


わかっているんだ、俺だって。

兄貴の言う事はいつだって正しい。


中学受験で失敗した日だって、謝れって言われたのに、俺は不貞腐れて部屋に篭った。

翌日は親父にぶん殴られたし、兄貴はほらみろって目をしていた。


陸上部に入ろうと、なけなしの貯金から費用を引っ張り出した日も、そうだった。

勝手に親父の部屋に入り込んで、勝手にハンコを押した事に気付いた兄貴は、やっぱりあの目で俺を見た。


親父に似た目。映るもの全てを、まずは見下そうという、そんな汚い目。


< 64 / 140 >

この作品をシェア

pagetop