きみと、春が降るこの場所で
グッと膝の上で拳を握り締めていると、兄貴が落胆したようなため息をついた。
「朔は勘違いをしているみたいだけど、父さんも母さんもお前の出来が悪いから叱るわけじゃないよ。ただ心配をしているだけだ、お前の今と将来を」
「そんなん、親父の保身のためだろ」
「まあ、それもあるな。けど、全部人のせいにするな。期待されていたのに、裏切ったお前のせいだって事を忘れるなよ」
空になったコーヒーカップを置き去りにして、兄貴がリビングを出ていく。
程なくして、玄関から出て行く音も聞こえた。
「くそが…!」
思い切り、テーブルに拳を叩き付けようとして、やめた。
カフェオレが零れて、苺ジャム塗れのトーストがひっくり返るだけだ。
後片付けをするのは俺なんだから、そんな手間をわざわざ作る必要はない。
イライラする。むしゃくしゃして、何かで発散しないと、爆発してしまいそうなくらい。
わかっているんだ、俺だって。
兄貴の言う事はいつだって正しい。
中学受験で失敗した日だって、謝れって言われたのに、俺は不貞腐れて部屋に篭った。
翌日は親父にぶん殴られたし、兄貴はほらみろって目をしていた。
陸上部に入ろうと、なけなしの貯金から費用を引っ張り出した日も、そうだった。
勝手に親父の部屋に入り込んで、勝手にハンコを押した事に気付いた兄貴は、やっぱりあの目で俺を見た。
親父に似た目。映るもの全てを、まずは見下そうという、そんな汚い目。