きみと、春が降るこの場所で
周りの汚い色に染まらないように、駆けていた。
止まらないように、目に映るものを綺麗だと呼べるように。
それなのに、いつから、俺も染まってしまったんだろう。
詞織の手が穢れを知らない純白なら、俺の手は汚れ過ぎた漆黒だ。
そう、思うようになったのは、何でだ。
俺が裏切ったんじゃない。
勝手に期待して、勝手に落胆して、何なんだよ。
兄貴も、親父も、母さんも。
皆変わっていく。
なあ詞織。俺も大人にはなりたくない。
あんなに汚くて、見る物全てに薄汚れたフィルターがかかっているような、大人にはなりたくない。
トーストを生ゴミの中に投げ捨てて、ぬるくなったカフェオレをシンクを流す。
エアコンを切らないまま、部屋に戻って自転車の鍵を引っつかんだ。
会いたい、詞織。
詞織の白が、欲しい。