きみと、春が降るこの場所で
それから数時間の間、夢も見ないくらいに深くぐっすりと眠った。
人口の光の眩しさに目を覚まして、ふと首をひねると、すぐそこに詞織の寝顔がある。
2人で1枚のブランケットを被って、眠っていたらしい。
倦怠感を全身に感じながら、上半身を起こす。
上がりっぱなしだった体温は少し落ち着いていた。
「朔くんおはよう」
彰さんがフライ返しを片手に俺に近付いて、額に触れる。
濡れタオルはすっかり乾いて、ラグの上にポツンと落ちている。
「うん。まだ下がり切ってはいないみたいだね。お粥にしたから、少しでも食べて。帰るなら送るし、泊まるなら大歓迎だよ」
「…すみません。俺、詞織に風邪移したかもしれなくて」
話し声にも起きないくらい熟睡している詞織の近くにいる事が、今更ながらすごく悪い事のように感じて、後ずさる。
「大丈夫だよ」
ポンポンと俺の髪を撫でて、彰さんが微笑む。
笑顔は安心させるためのものだけれど、言っている事は嘘ではないと、わかった。
「毎日暑いのに自転車でここまで来ていたせいだろう?私の配慮が足りなくて、ごめんな、朔くん」
「や、違います。俺が不規則な生活してたから、バチが当たったんですよ」
暑さ対策だって、俺がしっかりしておけばよかっただけの話だ。
「そうか。なら半分は朔くんの生活習慣の乱れ、半分は私の気配りの無さ、それでいいかな」
「…もうそれでいいです」
彰さんには何を言っても負かされるんだろう。
諦めて肩を竦ませた時、ブランケットがゆらりと揺れて、詞織が起き上がった。