きみと、春が降るこの場所で
◇
暗い部屋の中、ベッドに腰掛けて話をする。
「詞織はさ、比べられるって、どういう事だと思う?」
「…いやな事。悔しい事?」
そうだな。俺は比べられる事が嫌だった。悔しかったし、追い越せはしなくても隣に並べるように、頑張ろうとしていた。
「俺は比べられる事でしか、自分の存在を示せなかったんだ」
「どういうこと?」
「比べる価値もなくなったんだろうな。嫌いの反対は無関心だっていうけど、正にその通りだった。誰も、俺に構わなくなった」
兄のようになりなさいと言われていた頃は、反発ばかりしながらも兄貴の背中を見失わないようにもがいていた。
頑張っていたんだ。誰も見てくれなくても、いつかきっと気付いてくれるって、信じて。
「先に気付いたんだよな…目指していたものが、どれだけ汚れていたか」
言葉を選んで、けれど何も浮かばなかったように、唇を一文字に引き結ぶ詞織の頭を撫でる。
いいんだ。聞いてくれるだけで。
伝わっているから。だから、何も言わないでいてくれるんだろう。
俺の家庭状況は、説明すると余りにも単純で平凡だ。
少しばかり厳しい両親と、デキのいい兄。
そこに割り込むように生まれた俺は、要らないとまでは言わなくても、必要とは呼べない存在。
点在して、そこにあるような家庭なのに、俺ばかりが劣等感に塗れているようで、自分を嫌った。