きみと、春が降るこの場所で
◇
光陰矢の如し。その言葉がぴったりの、忙しい日々が続く。
「文化祭?そんなのあるんだ」
「そう。模擬店とか出し物とか、まあよく知らん」
「知らんのかいっ」
びしっと手振りまで加えて俺にツッコミを入れながら、詞織が足をばたつかせる。
早いもので、詞織が再び入院生活に戻って2ヶ月が経つ。
中庭のベンチで会える日は相変わらず限られているけれど、行けば必ず詞織がそこにいる事に、俺はすごく安心していた。
定期的な検査が通常運転の日々に戻った矢先は、痛いし針の痕が増えるから嫌だと騒いでいた詞織も、だいぶ落ち着いてきたと思う。
何より、聞ける範囲の検査結果に悪い点が見つからない事が、嬉しい。
「行きたいけどなぁ…」
文化祭準備に追われていると話した所、あからさまにシュンと落ち込む詞織は歯切れ悪く言って、黙り込む。
また抜け出そうとか、考えているんじゃないだろうな。
実際、検査結果に異常はないのだから外出許可の1つや2ついいじゃねえかと思うくらいには、俺も詞織に感化されているのだけれど。
「ごめんね、朔。わたし多分行けないや」
「だよな。彰さんの付き添いがあればOKとかなんねえかな」
「うーん。11月だと難しいよ。風邪引くでしょー!って言われちゃう」
そうなんだよな。もう10月も後半に差し掛かろうという時期だ。
夏休みに俺が風邪を引いた時は移らなかったけれど、さすがに流行り風邪は避けた方がいいだろうな。
「風邪引いたっていいんだけどね。院内感染とかさせちゃうと怒られるから」
軽く言う割には結構重大だろ、それ。
詞織だけに留まるもんじゃないもんな、風邪って。