きみと、春が降るこの場所で





光陰矢の如し。その言葉がぴったりの、忙しい日々が続く。


「文化祭?そんなのあるんだ」


「そう。模擬店とか出し物とか、まあよく知らん」


「知らんのかいっ」


びしっと手振りまで加えて俺にツッコミを入れながら、詞織が足をばたつかせる。


早いもので、詞織が再び入院生活に戻って2ヶ月が経つ。


中庭のベンチで会える日は相変わらず限られているけれど、行けば必ず詞織がそこにいる事に、俺はすごく安心していた。


定期的な検査が通常運転の日々に戻った矢先は、痛いし針の痕が増えるから嫌だと騒いでいた詞織も、だいぶ落ち着いてきたと思う。


何より、聞ける範囲の検査結果に悪い点が見つからない事が、嬉しい。


「行きたいけどなぁ…」


文化祭準備に追われていると話した所、あからさまにシュンと落ち込む詞織は歯切れ悪く言って、黙り込む。


また抜け出そうとか、考えているんじゃないだろうな。


実際、検査結果に異常はないのだから外出許可の1つや2ついいじゃねえかと思うくらいには、俺も詞織に感化されているのだけれど。


「ごめんね、朔。わたし多分行けないや」


「だよな。彰さんの付き添いがあればOKとかなんねえかな」


「うーん。11月だと難しいよ。風邪引くでしょー!って言われちゃう」


そうなんだよな。もう10月も後半に差し掛かろうという時期だ。


夏休みに俺が風邪を引いた時は移らなかったけれど、さすがに流行り風邪は避けた方がいいだろうな。


「風邪引いたっていいんだけどね。院内感染とかさせちゃうと怒られるから」


軽く言う割には結構重大だろ、それ。

詞織だけに留まるもんじゃないもんな、風邪って。


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