きみと、春が降るこの場所で
「つか、風邪がどうのって言うなら、そろそろ中庭で待ち合わせるのやめようぜ。前のソファとかどうだ」
「えー。あそこ寒いもん、やだ」
中庭の方が風が冷たいのに、ごねる意味がわからない。
上着を羽織っていても、たまにくしゃみをするくせに。
「じゃあどっか暖かい場所」
病院内の事は詳しくないから、場所の指定は詞織に任せる。
ちなみに、俺が詞織に会いに来るのを控える、ってのはナシだ。
「…なら、わたしの部屋に来る?」
眉根を寄せて、いかにも『本当は嫌なんだけれど』という顔をするから、意味を理解する前に詞織の頬をつねっていた。
「痛いよ!」
「ごめんって。もう1回言って」
「…わたしの部屋に来ればいいよって言ったの。今度は4床室じゃなくて個室だから」
ほんのりと赤くなった詞織の頬を撫でると、気持ち悪いからやめてと手を振り払われる。
「個室って高いんだよな」
とりあえず、そんな事を言ってみる。
退院をする前はあんなに頑なに部屋を教えなかったのに、あっさり過ぎる事に驚いて、他に言葉が出ない。
「知らない。お父さんがそういうのは気にするなって教えてくれないもん」
まあ、そうだよな。彰さんは金の心配なんて娘にさせるような人じゃないし。