きみと、春が降るこの場所で


「513号室。それと、火曜日、木曜日、土曜日以外は来ちゃダメだからね」


「前から聞きたかったんだけど、その曜日以外は何してんの?検査漬けではないだろ」


これは聞いてはいけない部類に入るのかと思ったけれど、悩む素振りを見せる詞織の返答を待つ。


「検査もあるけど、学習スペースで勉強してるんだよ」


「……マジで?」


「まじで」


何度も俺がマジかマジかと連呼するせいで、詞織も言い慣れてきたらしい。たまに、反芻する。


「勉強とかないわ。てっきり詞織が俺に気遣って1人で暇してんのかと思ってた」


「ちがうよ!わたしだってちゃんと忙しいの!レポートの量がそこそこあるんだから」


レポートと言われるとあまり馴染みがないけれど、要するに学校の課題だ。

手を付けている姿も、そこそこの量があるという課題も目にしたことがないから、予想外だったというか。こいつちゃんと勉強してるんだな。


「んじゃ、木曜は153号室に行くな」


「違うよ、513号室。153はありません」


「…普通に忘れるかもしんねえわ」


どちらからともなく立ち上がって、詞織がロビーまで俺を見送る。


控えめに手を振る詞織は、すぐに小学生くらいの子供達に囲まれて、どこかへ連れていかれていた。


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