きみと、春が降るこの場所で
奇跡なんて、そう簡単に起こるものじゃない。
奇跡に満ち溢れた世界で、それ以上を望もうとする事はおかしいと、どこかで誰かが言っていたけれど
望む出来事があって、それを叶える為の手段がない時は、原理さえわからない“奇跡”に頼るしかないんだ。
「………あ」
薄暗い空に、夜が忍び込む。
暗い窓の外に埃のような物が見えて、詞織を起こさないように身を乗り出す。
埃じゃない。白くて、小さな― ―
「し、詞織!起きろ!ほら、雪!」
興奮して、つい加減なしに詞織の背中を叩くと、ううんと唸りながら起き上がる。
「ゆき……」
「雪だって!ほら目開けろ」
思いっきり眉を寄せて外を見ているけれど、目が開いていない。
頬を軽く抓って無理やり目を覚まさせた。
「わ……すごいね、雪だ」
予想していた反応よりだいぶ薄い。
のそりと立ち上がって、裸足で床に下りた詞織はペタリと窓に張り付く。
「綺麗だね、雪…」
語尾が、掠れている。
窓ガラスに映る詞織の顔が少し悲しげに見えて、ブランケットを片手に横に並ぶ。
包み込むように、前に詞織がそうしたように、頭からブランケットを被せる。