小夜啼鳥が愛を詠う
「野木、感動。おだし、すごい。それに、鯖寿司絶品。」

絶賛する野木さんに、奥さんが朗らかに笑う。

「春秋くん、かわいらしいお嬢さんがたねえ。」
そして、奥さんは私達のほうに少し顔を近づけて、言った。
「どっちか、お嫁さんに来ない?私達、子供いないの。ここを継ぐ子が早く欲しいんだけど、このヒト、大学出てからもフランスと日本を行ったり来たり、ふらふらふらふら……。」

「お義姉さん。やめてぇな。せっかく仲良ぉしてもろてるのに。身構えはるやんか。」
朝秀先生は、苦笑して止めた。

「や。野木は、明田さんだけですから。」
間髪入れず、野木さんはそう言った。

私も、光くんだけだもん……と、言いたいのに言えなかった。

その前に、朝秀先生が笑顔で私の肩に手をおいた。
「桜子ちゃんは、こーんなちっちゃい頃から、光くんしか見えへんもんなあ?」

や。
確かにその通りなんだけど……

黙ってうつむいた私に、お兄さんの奥さんは勘違いしたみたい。

「あら!……まあ!……ちょっとちょっと、春秋くん。決めつけちゃかわいそうよ。ねえ?桜子ちゃん。女心は秋の空、ってね。タイミングもあるし。」

……何となく……私が朝秀先生に惹かれてると勘違いされたような気がする。

朝秀先生も察したみたいだけど、お義姉さんに気を使ってるのか、
「じゃあ、俺にもチャンスあるかな。桜子ちゃん。俺、どう?」
と、軽くウィンクした。

……どう、って言われても……ますます返事できない。
てか、さっきから肩に置きっぱなしの朝秀先生の手も気になる。

光くんが一緒に来なくて、よかった。
……そんなことを思ってしまった自分に、私は後で悔んだ……。


「おいおい。お嬢さん、困ってはるやないか。春秋。手ぇ、放し。……10年ぐらい、歳、ちゃうんやろ?犯罪やで。」
お兄さんが助け船を出してくださった。

「……10年ぐらい!さくら女のご両親も歳の差10歳だったと記憶してる。」

ボソッと無表情に野木さんは言ったけど、朝秀先生はニッと笑った。

「明田さんと野木ちゃんは……18年差やな。そやなー。俺の友達も9歳の年の差結婚したけど家庭円満そのものやわ。……あ、ちなみに、俺と君らも、正確には9歳差やな。」

朝秀先生の指摘に、野木さんは頬を染め、私はマジマジと朝秀先生を見た。
9歳差、でこんなに違うものなのか。

「パパとママも、最初は大人と子供だったんだ……。」

ついそう口走ったら、お兄さんが吹き出した。

「……そうかー。お嬢さんにかかったら、春秋もおっさんやな。」

笑いながらそうはやし立てるお兄さんに、朝秀先生は苦笑い。

「俺はまだ25歳のお兄さんで、桜子ちゃんはもうすぐ16歳、結婚もできる妙齢のお嬢さんなんやけどな。」
と、ぼやいていた。

……私がまだ16歳になってないって、よくわかったな。
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