小夜啼鳥が愛を詠う
「……桜子ちゃん?なに?急に。幽霊でも見えたんか?」

朝秀先生にそう聞かれて、私は慌てて首を横に振った。

「そう?……その位置に飾るつもりしてるねん。明田さんがチャリティーに出展した絵。もうすぐ届くから。」

「じゃあ、本当に、落札したんだ……。野木が落選するはずだ……。」
って!
野木さんも、入札したの!?

……明田先生、モテモテだよ……。

でも、そっか。
ここに、あの光くんが飾られるんだ……。

うーん……。
朝秀先生、やっぱりあの洋館、知ってるよね。

移築したかったのは、まさにアレ?
……じゃあ、あの絵のことも知ってて、面差しの似た光くんの絵を、わざわざ同じ位置に飾るのだろうか。

紅茶を飲み干すと、野木さんは素焼きしたお皿の絵付けにチャレンジし始めた。
しばらくそばで見てたけど、朝秀先生に手招きされた。

「桜子ちゃん、これ。荷物になるけど。」
朝秀先生はそう言って、額に納めた桜のエッチングを私に見せてくれた。

「え!本気ですか!?だって高いんでしょ?とても、もらえません!」
慌ててそう辞退した。

でも朝秀先生は、額を布で包みながら言った。
「いや、高くない高くない。それに、こないだそのつもりで余分に刷ってん。せやし、おまけやと思て、もろといて。……それに、桜子ちゃんが受け取ってくれな、野木ちゃんも受け取りにくい思うで?明田さんの絵。」

……そういえば、そんなことも言ってくださってたっけ。

「あや……シリーズじゃない、明田先生の絵っておっしゃってましたっけ?……そのシリーズって……見せていただくことは、可能ですか?」

何となく丁寧語を通り越して卑屈な謙譲語になってしまったけど、思い切ってお願いしてみた。

朝秀先生はあっさりと
「もちろん。」
と了承し、また別の部屋のドアを開けた。

意匠を凝らしたドアの向こうに、無粋な銀色の扉。
一瞬、金庫室かと思ったけれど、収納室かな?

「仰々しいやろ?火事に備えての防火設備付き収納庫なんや。版画と違(ちご)て、絵ぇは、複製したら意味がないからな。」

そう言って、朝秀先生はいくつかのスイッチを押して収納庫の扉を開けてくれた。
中には、額に入った絵だけじゃなく、書や、本、陶器も並んでいた。
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