小夜啼鳥が愛を詠う
ダメ?

……しょんぼり。

がっくりしてる私の額にママの白い手が伸びてきた。
ひやりと冷たく感じた。

「あー。さっちゃん。熱が出てる。疲れちゃった?」
「……うん。……何となく熱っぽいし、体の節々が痛い気がする。風邪かなぁ。」
「そう。葛根湯で治るかな。……先に夕食にする?」

ママはそう言いながら、桜の版画をまた風呂敷に包み直そうとした。

「いい。寝てるから、パパが帰って来たら起こして。……あ、それ、飾るから、包まなくていいよ。」

版画を再びママから受け取って、私は自室へ戻った。


本当に熱が上がってるみたい。
何だか、ぞくぞくする。
すぐに着替えてベッドに入った。

うつらうつらしてると、スマホが震えた。

あ……忘れてた。
光くん家からの着信があったんだ。

そろそろと手を伸ばし、スマホを手に取った。
スピーカーで電話に出る。

「もしもし。桜子です。ごめん。何度も電話もらってたのよね?」

てっきり薫くんだと思った。
でもスピーカーから聞こえてきたのは、光くんのママの声。

『……たびたびごめんなさいね。さっちゃん。光と一緒じゃないかな?』

ドキーン!と、心臓が跳ね上がった。
忘れようとしていた仮定がむくむくと首をもたげる。

……光くんは、実のお兄さんの子供ですか?……な~んて聞けるわけもなく……。

「あの、……こんばんは。……えーと、光くん?今日は逢ってません。……連絡、とれないんですか?」

反射的に時計を見た。
20時前。
高校生男子が帰宅してないからと言って、まだ騒ぐ時間ではないような気がする。
何かあったのかな。

『うん。今朝から姿が見えないの。携帯に電話しても電源入ってないみたいで。……もしかしたら、夕べからかもしれなくて……。ごめんね。どんどん心配になってきて……。』

光くんママは、いつもはむしろサバサバしてるヒトなんだけど、まるで別人のように動揺してるのが伝わってきた。

「夕べから!?」

さすがに驚いて、私はガバッと起き上がった。

そうだ。
そもそも、おかしいわ。
平日ならともかく、今日は祝日。
せっかくママが出勤じゃなくて家にいる日に、わざわざ光くんが姿を消すなんて。

「私、友達にも聞いてみます。……あ!菊池先生のアトリエ!」
『……アトリエ……。菊池先生、ね。行ってみる。』
「私も行きます!」

思わず、そう言ってた。
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