小夜啼鳥が愛を詠う
確かに光くんは、綺麗な瞳を閉じて、すーすーと軽やかな寝息をたてて眠っているんだけど……妙に生々しくて……

うわぁ。
光くん……裸?

覆った毛布から出た、ハッとするほど白いけど筋肉質な肩と……毛が1本も生えてない白い長い脚が露わでドキドキする。

でも、光くん1人だ。

……ちょっと、ホッとした。

まさかとは思ったけど、光くんが……女性を連れ込んで……な~んて疑ったりもしたけど……よかったぁ。

私は安心して、改めて戸を開けようとして……わずかな物音に気づいた。

光くんだけじゃない?
え!?

いや。
そういえばまだ秋とは言え、裸で眠る季節じゃない、か。

あ、でも。
明田先生のモデルって可能性もあるよね。

私は、また少し襖の隙間を大きくしてみた。
見える範囲が広がった。

いた!

明田先生がこちらに背を向けて、畳に座っていた。
膝にスケッチブックを置いて、鉛筆を走らせているようだ。

……やっぱり、モデルになってたんだ。
なーんだ。
よかったぁ。

邪魔しちゃ悪いかな。

そのまま、襖を閉めようとして……気づいちゃった。
明田先生も服を着てないことに。

……。

……。

……。

頭が真っ白になった。


とにかく……出よう……。

私は、襖を閉めることもできず……後ずさりして……はいつくばって廊下を戻った。

口から心臓が飛び出してきそう。
気持ち悪い……。

どうしよう。
見間違いであってほしい。

でも、確かに、2人は裸のように見えた。

光くんは毛布を、明田先生はたぶんタオルケットを羽織っていた……。

ちらっと見えた明田先生の腕にも脚にも……気持ち悪い黒い毛と、ぶよっとした肉……筋肉じゃなくて、ぶよぶよした脂肪を感じて……。

……ダメだ。
吐きそう。

私は、そっと玄関を出ると、脇にうずくまって嘔吐感がおさまるのをじっと待った。

涙がこみ上げてきた。

……信じられない。
信じたくない。
でも……。

光くんの幸せそうな寝顔を思い出して、胸がズキズキと痛んだ。

「……さっちゃん?」
門の向こうから小さな声。

見上げると、光くんママが真っ青なお顔で立っていた。

息を弾ませてるのに、顔色が悪い。
心配して……気が気でなかったのかな。

私は、立ち上がって、門から出た。
そして、光くんママの手を引いて、アトリエから少し離れた。

光くんママは何も言わずについてきてくれた。

頭のいいヒトだから、泣いてる私を見て、ある程度の状況を察知したのかもしれない。


「光、居たんやね……。」
川沿いの遊歩道のベンチに座ってから、光くんママがホッとしたようにつぶやいた。

私はうつむいたまんま、うなずいた。
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