小夜啼鳥が愛を詠う
「……嫌なモノ、見たんやね。……ごめんね。さっちゃん。」
光くんママはそう言って、天を見上げた。

綺麗な横顔……。

私はポケットからハンカチを出して、涙を拭いた。

「……光くん……幸せそうに眠ってました。だから……安心してください……。」

拭いても拭いても涙は止まらないけれど、なるべく静かにそう伝えた。

光くんママはため息をついた。
「そう……。でも、よかった。……さっちゃんは、無事で。」

え?

言葉の意味がわからず、私はハンカチを握りしめたまま、光くんママを見た。

光くんママは、笑顔を作って、私の髪を撫で整えてくれた。
「さっちゃん、ごめんね。……いつも、光の面倒見てくれて……本当に、ありがとうね。でも……こんなこと言いたくないけど……光に流されないでね。」

流される?
光くんに?

それって……光くんに誘われてもHをするな、って意味?

私はすっかり動揺して混乱した。

「あの……私は……」

……光くんになら、何をされても……幸せなんです。

菊地先輩に無理矢理キスされそうになった……というか、かすったけど、それがきっかけで光くんが確かにキスしてくれたから、むしろ、幸せな思い出に塗り替えることができたんです。

光くんが望むなら……Hも……拒めない。

……な~んてことを、光くんママに言えるはずもなく……。

照れて困ってると、光くんママは苦笑した。

「……ごめん。そうよね。さっちゃん、ずっと光のこと想ってくれとるもんね。……押し倒されても抵抗できないよね。……デリカシーないこと言うけど、ごめん。真面目な話。光、たぶん、今……うーん……発情期みたいなもんねんか。割と見境ないと思う。理性で相手を選んでくれるといいんやけど……こんな言い方してごめんな……光、さっちゃんのことは大事に想ってるから、無責任な行動には出ぇへんと信じたいんやけど……ごめん、絶対ないとは言えんわ。……せやし、さっちゃん、気を強く持って……なるべく光と2人きりにならへんほうが……。」

光くんママはそこまで言って、ガックリと肩を落とした。
そして、力なくこぼした。
「……何、言うとんねんなあ……アホや……私。」

こんな光くんママを見るのは、はじめてだ。

いつも、眩しいぐらいギラギラしてて、家族の愛情を存分に受けて、自信たっぷりで……なのに、今の光くんママは……少女のようにしょんぼりしていた。

「あの……仰りたいこと……わかります……何となく。」

そう言って、光くんママの背中にそっと手を宛がった。

そして思い切って言った。

「……男同士も、発情期ですか?」

……言葉にしたらあまりにも陳腐で……私は、激しく後悔した。
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