小夜啼鳥が愛を詠う
「あかんわ。帰ろう。送る。てか、先にお家に電話するわ。心配してはるかもしれんし。」
光くんママは、ポケットからスマホを取り出した。

私は首を横に振って、止めた。

「大丈夫。……帰る……。」
そう言って、立ち上がった。

けど、血が足りなかったみたい。

さーっと、血の気が引いていくのがわかった。

貧血だ……。
くらくらする。

私はそのまま椅子に座り込んだ。

「わかった!じゃあ、光、呼んでくる。さっちゃんをおぶって運んでもらおう。」

光くんママはそう言ったけど、私は慌てて引き留めた。

幸せそうな光くんの眠りを、妨げたくなかった……。

それに、どんな顔して光くんに逢えばいいのか、わからない。

絶対、泣いてしまう。
……困らせてしまう。

「すぐ……立てるようになる……」
弱々しい声しか出ないことに、苦笑した。

熱と精神的なショック2連発の、タブルパンチ、いや、トリプルパンチに、私はノックアウトされたようだ。

目の前が暗くなっていく。
……と、元気な足音が近づいてきた。

「桜子っ!!」

薫くんだ。

私の目が、勝手にパッチリと開いた。

「薫!?あんた!家にいろ、って言うたのに!」

光くんママのお小言を無視して、薫くんは私の前にしゃがみこんだ。

「なんちゅう顔しとーねん。風邪か!しんどいんか!」

ポロッと涙がこぼれ出た。

言葉よりも雄弁に、私の瞳が薫くんに訴えかけた。

助けて、と。

薫くんは、確かに私の願いをキャッチした。
すぐさま私の腕を引っ張り、私を背負って、立ち上がった。

「お母さん。桜子、家まで送るわ。光、いたんけ?」
「あ、うん。いた。……私も一緒に行って、さっちゃんのママに謝るわ。」

光くんママはそう言ったけど、薫くんは片手を軽く振った。

「俺が謝っとく。……光は、お母さんに任せた。」

……薫くんの背中……熱くて……汗でじんわり湿気ってる。

走ってたのかな。

てか、いつの間にか、少年の身体じゃない。
背中に確かな筋肉を感じて……私の中に安堵感が広がった。

「わかった。さっちゃん。今夜はごめんね。また、ちゃんと話そう。……このまま誤魔化して逃げるつもりはないから。」

光くんママは、最後は仁王立ちで挑戦的にそう言った。
いつもの、たくましい光くんママだ。

私は、つい笑ってしまった。

「はい。でも、大丈夫です。」

……正直、動揺した。
近親相姦も、男同士の性行為も、不潔と感じた。
とても、受け入れられないと思った。

でも、薫くんを見たら……何だかどうでもよくなってきちゃった。

変わらない、と思った。
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