小夜啼鳥が愛を詠う
例え、光くんママと、彩瀬さんが、兄妹で愛し合っていたとしても、レイプだったとしても、その結果生まれたのが光くんなら、大切なプロセスだったんだと思う。

全てを受け入れて、海のように広い心で光くんと、光くんママを包み込んで愛してる光くんパパに、薫くんが似てるから、かな。

……それに、何があろうと揺るぎない愛情を全力で表現してくれる薫くんの存在は、私にとって何よりの救いかもしれない。

「……さっちゃんてば、もう……大好きよ。またね。お大事に。」

光くんママは、くしゃっと笑って手を振ってくれた。
目尻に涙が光った気がした。

私も、薫くんの背中から少し首を伸ばして会釈した。

……私も、大好き。

光くんも、光くんママも、光くんパパも、おばあちゃんも、頼之さんも……みんな好き。

「俺も好きー。」

歩き出しながら、ボソッと、薫くんがそうつぶやいた。

「私も。……好きよ。」

大好きな薫くんの背中に頬をくっつける。

一瞬、薫くんの足が止まった。

「大丈夫?重くない?」

慌ててそう尋ねたけど、薫くんは少し振り返って明るい声で言ってくれた。

「全然。桜子1人ぐらい、どこまででもこのまま行けるわ。でもほんまに家でいいんか?病院のほうがええんちゃうか?めっちゃ熱上がってそうやけど。」

「うーん。一旦、帰宅する。ママが心配してると思うし。それに……なんか、ふわふわして、気持ちいいかも。」

不思議だった。
熱が上がって、しんどいはずなのに。
私は自分でも驚くほど、薫くんの背でリラックスしていた。

現実感がないというか……あ、そうか。
重力を感じないんだ。

おかしいな。
背負われるのって、けっこう大変なことのはずなのに……私……

薫くんの背中で、私は眠ってしまった。
……気を失っていたのかもしれない。


「さっちゃん?どうした?……薫くん?」
パパの声で、目が覚めた。
マンションのエントランスで、ちょうど帰宅するパパとかち合ったみたい。

途端に、ぶるぶると身体が震え始めた。
歯がガチガチと音を立てる。

激しい悪寒に、私は薫くんにぎゅっとしがみついた。

「桜子?大丈夫か!?しんどいんか?……マスター、桜子、熱が高いねん。なんか、やばそう。病院行ったほうがええんちゃう?」

一旦開いた目を再び閉じる。

気持ち悪い……。
また吐き気がしてきた。
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