小夜啼鳥が愛を詠う
「そうやろうな。でも同時に、吉川彩瀬は来るもの拒まずの困った性癖があってな。……まあ、遊女の母親譲りの白痴美人やからほっといてもモテ過ぎっちゅーか、幼少期から何度となく性的虐待や暴行に遭っとったそうや。……俺が出会ったんは高校に入学してからやけど、ゾクッとするほどの色気に完全にやられたわ。……明田もそやろ?」

頼之さんの自嘲に、光くんママが半笑いになった。

……てことは?
ものの比喩じゃなくて、頼之さんも、彩瀬さんに惹かれた?

「魔性の女……じゃない、魔性の男だったんですね、彩瀬さん。」

私がそう言うと、頼之さんはニコリともせずにうなずいた。

「無邪気な天使の顔した魔性や。たち悪いやろ?……光には、同じ道を辿ってほしくなくて、格闘技を習わせた。あおいに似て、頭も良かったし、何より、病的な人見知りやったから、安心しとってんけどな……ここに来て、また魔性の片鱗や。」

なるほど。
それで光くんは、小さい頃からずっと空手を習ってたんだ。
今も、空手だけはサボらずに続けてるんだ。

でも、そんなに……

「光くん……そんなに、遊んでるんですか?」
ドキドキしながらそう聞いた。

「さあ。全容はわからん。でも、春から夏にかけては、あおいを挑発したいんか、見えるところにキスマーク付けてたり、女の残り香まとって帰宅しとったな。目に余って自重するように言うてからは、あからさまなことはしとらんようやけど……」

「ちょっ!頼之さん!あかんて!さっちゃんが……ごめん、さっちゃん。」

さすがに、キスマーク云々は、私の心を直撃した。

胸が……痛い……。
口をキュッと結んで耐えてみたけど、やっぱり苦しい。

「……ごめん。デリカシーなかった。……いや、でも、覚えとってほしい。好きでもない女でも、男でもやっとるってことや。さっちゃんは、流されんときや。……何かのはずみでそんな雰囲気なっても、逃げや。」

「……自信ない。」
私はしょんぼりしてそうつぶやいた。

光くんママがうんうんと、何度もうなずいていた。

頼之さんは苦笑いして、コーヒーカップを口元に運んだ。
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