小夜啼鳥が愛を詠う
「それから、吉川彩瀬の母親のことやけど……ちょっと前にやっと廃止になった赤線の遊女やったってことは、もう聞いとるんやって?」

頼之さんの質問に私はうなずいた。

「ほな、話は早いな。既に店も関係者もいよらんから、父親を特定することはできんかった。でも、母親の実家は辿った。但馬の子や。家も土地も親戚もなかったけど、母親に双子の妹がいることはわかった。今も元気に生きとられることも確認済みやけどな……言い方悪いけど、姉妹揃って、ちょっと頭が弱かったんやな……綺麗やけど危ういというか……だから、彼女を訪ねることは辞めといた。今後も、関わるつもりはない。……これからも、光の身内は俺らだけのつもりでいて欲しい。」

……それって……彩瀬さんの実の叔母さんってこと?
じゃあ、彩瀬さん、血縁者がいないわけじゃなかったんだ。

「彩瀬さんは、本当のお母さんのことも、双子の妹さんのことも、知らないで亡くなられたんですか?」
「……ああ。俺らも知ったんは、10年ぐらい前やったし。……そやな。吉川彩瀬が生きてるうちにわかってたら、同い年の従兄に会わせてやりたかったな。」

……従兄も、いるんだ。

何も知らないまま……光くんママだけに未練を残して、死んでしまった彩瀬さんを想うと、泣けてきた。

ギョッとしてるパパに会釈して、それから2人に向き合った。

「光くんは、彩瀬さんより、ずーっとずーっとずーっと幸せですね。ちゃんと血のつながったママと薫くんがいて、血は繋がってなくてもこうして生涯守ってくれるパパがいて。」

泣きながら笑顔でそう言えた。

「……ありがとう。」

しみじみと頼之さんがお礼を言い、隣の光くんママは涙を光らせた。

「さっちゃんの存在もよ。光に愛想尽かさんと、優しくお世話してくれて、ほんまにありがとうね。光は幸せな子ぉやわ。」

光くんママにそう言われて、私は……少しつらかった。

……でも、私は、光くんの発情の対象になってないんです……。

さすがに、いくら私がポジティブでも、わかるよ。
私は、光くんにとって恋愛対象じゃない。

大事にしてるから、手を出さない?

ないない!

だって、現に彩瀬さんは、光くんママを……。

死してなお、光くんママに執着してる彩瀬さん。

つまり、そういうことなんだ。

たとえ、これから光くんの中から彩瀬さんが消えても……光くんがママ以外の誰かを好きになっても……私じゃない……。

もう……無理だ……。
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