小夜啼鳥が愛を詠う
なのに、私はこんな時でもイイ子になってしまった。

「なるべく、学校でもアトリエでも、お友達と集団で光くんと一緒にいるようにします。どこまで抑止力になれるかわからないけど……光くんを見守ります。」

嘘いつわりはない。
本心だ。

……でも、もう……今までのように光くんの気持ちが私に向くのを待つことはできない。

認めたくなかったけど……認めざるを得ない。
私は、光くんにとって、幼なじみでしかない……。

パパが小さく息をついた。
そして損な役割を敢えて引き受けた私に、苦笑交じりの微笑をくれた。


お勘定は、当然のように頼之さんが支払ってくれた。

頼之さんの背中を見送ってから、光くんママが小声で言った。
「……明田さんのことやけど……」

ドキッとした。

黙って光くんママを見つめる。

「……私、知らんかってんけどな……頼之さんが言うには……彩瀬が高校生の時、明田さんと関係しとったって。」
「やっぱり!」

思わずそう言った私に、光くんママがちょっと笑った。

「なんや。さっちゃん、そんなことまで知っとったん。……ごめんな。うちらの知らんとこで、ずいぶんと気を揉ませて悲しい想いさせとったんやなあ。」

私はかすかに首を横に振った。

「悲しいばかりじゃなかったです。」

あ、過去形で言っちゃった。
まあ、いいか。

開き直って私は言った。

「明田先生、女性と付きあったことない、って言ってました。……てことは、男性とはあるのかなって、友達が言ってたので。……明田先生、一途っぽいから……。」
「あー。そう。……困ったな。淫行で訴える!って言いたいところだけど……光が気を許してる数少ない相手だけに……。」
「……明田先生なら、妊娠しないし、エイズの心配もなさそうだし、無理に引き離す必要ないんじゃないですか?」

まるで他人事のようにそんなことを言ってしまえる自分に、内心驚いた。
と、同時に、笑えた。

なーんだ。
私、やっぱり、みんなが言ってくれるほど優しい子じゃない。

「邪魔はします。明田先生が野木さんにほだされるように仕向ける努力もします。でも、光くんを悲しませることは、したくないです。」

……あれ?
黒くはなりきれてない?
中途半端だわ、私。

そんな私の葛藤がわかるらしく、光くんママは黙って見てくれていた。

優しい慈愛の瞳……。

このヒトに、敵うわけがない。
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