小夜啼鳥が愛を詠う
また泣きそうになったのを誤魔化して聞いてみた。

「扇屋の彩瀬さんって双子だったんですね。……。あの絵は彩瀬さんじゃなくて、妹さんの可能性もあるんですね。」
「絵?……明田さんの絵のモデルは、光と、彩瀬だけど……」

あれ?

話が通じてない。

「いえ。明田先生の絵じゃなくて。あの洋館の絵です。」
「洋館?……どこの?須磨の別荘?異人館?」

どうやら、光くんママは、薫くんの遊び場だった山を知らないらしい。

あれ?

薫くん、もしかして内緒にしてたのかな。
私、余計なこと言っちゃった?

「あの……お寺の管理してる山に御堂と小さな洋館があって……そこに、光くんそっくりな、たぶん女性の絵が飾ってあって……」
「お寺……。ああ、藤巻くんのお父さんが管理してるっていう?そう。あの子、何にも言わないから……。そんなに似てるの?」

光くんママが食いついた。

あ……やばいかも。

時、既に遅し。

光くんママは、当然のように
「見たい!見せてもらう!……えーと、藤巻くんのお父さんの携帯ナンバーは……」
と、スマホをいじり始めた。

あーあ。



土曜日の午後。
光くんママと2人で、御院さん、つまり藤巻くんのお父さんを訪ねた。

……秘書の玲子さんがお茶を出してくれたけど、会釈しかできなかった。

何となく……光くんママの目が怖くて……。

逆に玲子さんは、興味津々で光くんママを見てる気がする。

「お待たせいたしました。本山から、ご覧になっていただく許可は得ることができました。……せやけど、貸与や譲渡はできない、とのことでした。それから、撮影はけっこうですが、二次使用は、改めて許可申請をお願いします。……ややこしいことで、すみません。」

そう言いながら、御院さんは大きな黒塗りのお盆を持ってお部屋に入ってきた。

お盆の中には、芥子色の風呂敷包み。

御院さんはチラッとテーブルの上を見て、テーブルではなく、ご自分のデスクの上にお盆を置いた。

「……ありがとうございます。お手数おかけして、すみません。」

光くんママはそう言って、ソファからすっくと立ち上がった。
そして手早く、時計と指輪をはずして、スーツのポケットに入れながらデスクに近づいた。

……なるほど。

大切な絵画にお茶をこぼさない気遣いと、金属で傷つけない気遣い、か。

さりげなくそんなことをやってのける教養ある常識人な2人に、玲子さんと私はうなずき合って感心を共有した。

「これは……」
光くんママはそのまま絶句した。

あ、そうだ!

私は、スマホをゴソゴソといじって、一枚の画像を表示させた。

先週、朝秀先生が見せてくれた扇屋彩瀬さんの白黒写真。
朝秀先生にお願いして写メで送ってもらったモノだ。
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