小夜啼鳥が愛を詠う
「……いた。小田桐さん。山間部の系列寺院の住職ですね。」
「山間部……。但馬?」

扇屋の彩瀬さんの出身地が但馬だったことを思い出してそう聞いてみた。

「ええ。そうね。……あら。その絵の作者は、亡くなってらっしゃるのかしら?現在の住職は、息子さんかしら。お若い住職よ。30代。」

玲子さんがそう言うと、光くんママはため息をついて、がっくりと肩を落とした。

「そうですか。……ありがとうございます。お手数おかけいたしました。一応、そのお寺の名前と所在地を教えていただけますか?」

玲子さんはうなずいて、プリントアウトしてくれた。

「もし、お寺もお訪ねしはるなら、私からも口添えしますんで、お声掛けください。」

御院さんのお申し出に、光くんママはにっこり笑ってお礼を言った。

「ありがとうございます。その時は、よろしくお願いします。」


辞去の挨拶をして席を立とうとした光くんママに、御院さんが言った。
「話は変わりますが、冬休みに、薫くんがうちの清昇と、ここで清掃ボランティアをしてくれるゆーてるんですが、お願いしても差し支えありませんか?」

「……。」
光くんママは、目を見開いて驚いていた。

どうやら、何も聞いてなかったらしい。

「……ボランティアって……あの子、わかっとーねんろうか。……もちろん、止める理由はありませんが……あの……却ってご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんけど……大丈夫でしょうか?遊び気分で来る気ぃしとーよーな気がする……。」

光くんママの心配はもっともだわ。
私にも、はしゃいで暴れる薫くんと、諫める藤巻くんの様子が目に浮かぶよう。

御院さんは、ニコニコうなずいた。
「せやから、こちらも、遊ばせんように対策をたてました。……お嬢さん。冬休みは、お暇ですか?」

「……え?」

何を聞かれてるのかわからず、ポカーンとした。

御院さんは、楽しそうに続けた。

「毎年、お正月はどうしても、職員も交代で休み取るんで、手薄になるんですわ。うちの清昇(せいしょう)らもボランティアで助けてくれるんやけど、今年は予算ついたから学生バイトを頼むんやけどな。お嬢さん、来はりませんか?」
「アルバイト……ですか……。」

それは、考えたこともなかったわ。

どう返事しようか困ってると、玲子さんが笑った。

「まあ、突然言われても返事できないわよね。高校生だし。章(あきら)やさっちゃんがダメって言うかもしれないし。」

私はこっくりうなずいた。
< 125 / 613 >

この作品をシェア

pagetop