小夜啼鳥が愛を詠う
「そうやなあ。お金が必要なようにも見えんしなあ。……むしろ、ボランティアを頼んだほうが、快く引き受けてくれそうなお嬢さんやとは思うんやけど……さすがに、私らのほうから奉仕を求めるのはおかしい話やからなあ。」

御院さんの言葉と表情が砕けた。

何となく、ホッとした。

「お手伝いなら、いくらでもさせていただきます。もしお心遣いくださるなら、交通費とお昼ご飯を付けていただけば、それで充分です。……でも、私じゃ、薫くんを監督できませんよ?ねえ?」

光くんママに同意を求めたつもりだった。
でも、大人3人ともが薄ら笑いで否定していた。

どうも、大きな誤解をされてるみたい。
光くんも薫くんも、自由人過ぎて……まったく、私の思惑通りに動いてくないんだけどなあ。



11月下旬の祝日。
普段は閑散とした山間の陶工の村は、祭りのように賑わう……らしい。
喧騒を避けたその翌週の土曜日、私達は再び登り窯を見学させてもらった。

今度は大人数、しかも泊まりがけでお邪魔した。

「ごめんねー。私まで来ちゃって。ほら、光!薫!ご挨拶!」
彩瀬さんを描いた絵を観たかったらしく、光くんママまで来た……すごーく不本意そうな光くんを連れて。

光くんは慇懃無礼なほどに丁寧なお辞儀をした。

薫くんは目をキラキラさせて、登り窯を見ていた。

「こんなに原始的で単純なでっかいもんで、あんなに繊細な作品が作れよるって……。結局、技術ってことか。すげー。」

そのつぶやきに、朝秀先生のお兄さんが足を止めた。
「ありがとう。技術をほめてくれて。」

当の本人に聞かれてるとは思わなかったらしく、薫くんは直立不動になった。
「生意気なこと言うて、すんません!」

いかにも体育会系な薫くんに、朝秀先生のお兄さんがほほえんだ。

「いや。うれしいわ。俺には技術しか誇れるもんがないしな。」

「……技術以外に、何か必要なん?」
不思議そうに薫くんが聞き直した。

朝秀先生のお兄さんは、苦笑まじりに言った。
「せやなあ。偉大な父親と、不肖の弟にはあるのに、俺には決定的にないもんや……創造力。新しい発想。……才能。」

ドキッとした。

いかにも優秀で優しそうな人格者のお兄さんが、薫くんにコンプレックスをこぼしてる……。

私は何も言えなくて、ただ見つめた。

でも薫くんは、不思議そうに首を傾げた。
「あんだけ綺麗なもん作るんも、才能や思うけど。俺、めっちゃ好き。」

「……うつわに、興味あるんか?珍しいな。」
朝秀先生のお兄さんもまた、不思議そうに薫くんを見た。
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