小夜啼鳥が愛を詠う
「母は、他人に媚びる彩瀬おじさんを見たことなかったんやそうです。ここに描かれた彩瀬おじさんは、ちょっと怪し過ぎるゆーか、媚び媚びで、嫌いみたい。」
……わかったようなわからないような……何となくわかるような……
私にはやっぱりよくわからないのだけど、朝秀先生と坂巻さんには理解出来たようだ。
「まあ、確かに。扇情的やわな。……明田さんの欲情の具現化やしなあ。」
苦笑する朝秀先生に、坂巻さんはうなずいた。
「あれもそうやな。ほら、春秋が欲しがった神戸の別荘に飾ってある絵。生々し過ぎ。画家がモデルとの関係を誇示したくて描いた絵ぇは、情念が残存しすぎて、しんどぉなるもんにはしんどいやろな。」
「……まあ、そんなとこやな。でもその生々しさが、芸術的に受けることもあるんやから、そう、嫌そうな顔せんでも。……ところで、その神戸の絵ぇやけどな、あれ、何であそこに掛かってるん?」
朝秀先生が坂巻さんにそう尋ねた。
思わず私も口を挟む。
「私も、聞きたいです。あの絵のモデルさんは朝秀先生が仰ってた扇屋の彩瀬さんで、描いた画家さんは小田桐さんっておっしゃる但馬地方の住職さんだと伺いました。どういったご関係であそこに飾ってらしたんでしょうか。」
私は、敢えて、知ってることを全部開示した。
坂巻さんは、少し周囲を見回してから、おもむろに言った。
「イロイロよぉ知ってんなぁ。まあ、そういうこっちゃ。あの建物は130年以上前の猊下の奥方のために建てられたんやけど……実際には奥方は行ったことないまま亡くなってしまってな。」
「それってもしかして……」
朝秀先生がやや上空をキョロキョロと見回した。
なに?
坂巻さんもさっき、空(くう)を見回したけど……。
「幽霊?」
薫くんが尋ねると、坂巻さんは表情を消して口を硬く結び、朝秀先生はニッコリ笑ってうなずいた。
対照的な二人の反応がおかしくて、ちょっと笑いそうになったけど、我慢我慢。
「……春秋……。」
坂巻さんはジロリと朝秀先生を睨んだ。
でも朝秀先生は飄々と言った。
「いいからいいから。たとえ、お前に高子(たかいこ)さまの幽霊が見えるってゆーても、この子らは、別に変に思わへんわ。なあ?」
幽霊!
思わず、生唾を飲み込んだ。
薫くんの目は、むしろ期待感でキラキラ輝いた。
坂巻さんはため息をついて、素っ気なく言った。
「そういえば、そうやな。光にもしょっちゅう変なもんが出入りしてたな。……あれ、今もいるんか。……まあ、そういうこっちゃ。幽霊とは言え、意思疎通できるうちは不憫に想う。売る気も壊す気もない。もう50年もしたら文化財登録できるかもしれんしな。」
「すげぇ!見えるん!?」
薫くんが坂巻さんにそう迫った。
……わかったようなわからないような……何となくわかるような……
私にはやっぱりよくわからないのだけど、朝秀先生と坂巻さんには理解出来たようだ。
「まあ、確かに。扇情的やわな。……明田さんの欲情の具現化やしなあ。」
苦笑する朝秀先生に、坂巻さんはうなずいた。
「あれもそうやな。ほら、春秋が欲しがった神戸の別荘に飾ってある絵。生々し過ぎ。画家がモデルとの関係を誇示したくて描いた絵ぇは、情念が残存しすぎて、しんどぉなるもんにはしんどいやろな。」
「……まあ、そんなとこやな。でもその生々しさが、芸術的に受けることもあるんやから、そう、嫌そうな顔せんでも。……ところで、その神戸の絵ぇやけどな、あれ、何であそこに掛かってるん?」
朝秀先生が坂巻さんにそう尋ねた。
思わず私も口を挟む。
「私も、聞きたいです。あの絵のモデルさんは朝秀先生が仰ってた扇屋の彩瀬さんで、描いた画家さんは小田桐さんっておっしゃる但馬地方の住職さんだと伺いました。どういったご関係であそこに飾ってらしたんでしょうか。」
私は、敢えて、知ってることを全部開示した。
坂巻さんは、少し周囲を見回してから、おもむろに言った。
「イロイロよぉ知ってんなぁ。まあ、そういうこっちゃ。あの建物は130年以上前の猊下の奥方のために建てられたんやけど……実際には奥方は行ったことないまま亡くなってしまってな。」
「それってもしかして……」
朝秀先生がやや上空をキョロキョロと見回した。
なに?
坂巻さんもさっき、空(くう)を見回したけど……。
「幽霊?」
薫くんが尋ねると、坂巻さんは表情を消して口を硬く結び、朝秀先生はニッコリ笑ってうなずいた。
対照的な二人の反応がおかしくて、ちょっと笑いそうになったけど、我慢我慢。
「……春秋……。」
坂巻さんはジロリと朝秀先生を睨んだ。
でも朝秀先生は飄々と言った。
「いいからいいから。たとえ、お前に高子(たかいこ)さまの幽霊が見えるってゆーても、この子らは、別に変に思わへんわ。なあ?」
幽霊!
思わず、生唾を飲み込んだ。
薫くんの目は、むしろ期待感でキラキラ輝いた。
坂巻さんはため息をついて、素っ気なく言った。
「そういえば、そうやな。光にもしょっちゅう変なもんが出入りしてたな。……あれ、今もいるんか。……まあ、そういうこっちゃ。幽霊とは言え、意思疎通できるうちは不憫に想う。売る気も壊す気もない。もう50年もしたら文化財登録できるかもしれんしな。」
「すげぇ!見えるん!?」
薫くんが坂巻さんにそう迫った。