小夜啼鳥が愛を詠う
「……いや。正確には、今は見えない。昔は見えた。……今も、声は聞こえるけど、あの人、寺の敷地からあまり出てこんから、今は、いてへん。光のアレはまた別や。オンとオフみたいな感じで、光を憑代(よりしろ)にしよる。」

私にはイマイチ意味がわからなかったけれど、薫くんには利解できたらしい。

「へえぇ!そんなことまでわかるんや!すげぇ~~~!!!」
「俺は別にすごくはないで。むしろ、憑代にされても、自分を保てる奴はすごい。たまにいるんや。スポーツ選手や芸術家に。……光は、知らんけど。」

坂巻さんはそう言ってから、ソファに座った。

「あの絵ぇは、ちょっと禍々しすぎた。描いた本人も持て余してしもて供養に持ってきたんやけど、あの人が気に入ってしもてな。」

え!
幽霊が気に入ったから、飾ってるってこと?

……なんか、禍々しさにさらに拍車がかかりそうなんだけど……。

「どこが気に入ったん?高子さまの。」
さすがに、あの絵が初恋だとまで言っていた朝秀先生は、しつこく聞き出そうとした。

坂巻さんは言いたくなさそうな雰囲気だったけれど、ガックリとうなだれて、つぶやいた。
「来てしもた……。春秋が何回も名前を呼ぶから。……勘弁してくれ。」

え!?

幽霊、来たの!?

「どこ!?このへん?ここ?」

薫くんが部屋をぐるぐる回って指さして回る。

「……言わん。」
坂巻さんはぶっきらぼうにそう言って、ソファから立ち上がった。
「帰るわ。春秋。」

え!

そんな急に!?

驚いたけれど、坂巻さんは本気で帰るつもりらしい。

私たちに聞かせたくないような話を幽霊から聞いたのかしら……。
でも、今、坂巻さんを帰してしまったら……今度、いつ会えるかもわからない。
せっかくチャンスなのに。

……よし!

思い切って言ってみた。

「高子(たかいこ)さま!はじめまして!古城桜子と申します。」

振り返った坂巻さんが怪訝そうに私を見た。

こわっ!
めちゃめちゃきっつい目!

私は慌てて視線を外して、坂巻さんの左肩の少し上にロックオン。
まるで高子さまが見えてる振りをしてみた。

でも、そこまでだった。

「え……桜子ちゃん、見えるん?」

朝秀先生にそう聞かれてしまうと、私は嘘をつくことができず……首を横に振った。

ダメだわ。
私。

はったりをかますつもりだったのに、開き直れない。

……ヘタレだわ。
< 133 / 613 >

この作品をシェア

pagetop