小夜啼鳥が愛を詠う
こじれた初恋
窓を開けると温かい春の風が、真新しい制服のスカートを揺らした。


「よく似合ってるわ。」
ママが目を細めてほめてくれた。

「うわぁ。懐かしいな。なっちゃんと同じセーラー服。さっちゃん、かわいいよ。すごく似合ってる。……なあ、行き帰り、送迎したほうがいいんじゃないか?すぐ変な虫つくんじゃないか?……心配になってきた。」
パパは一旦はデレデレに下げた目尻を、再び釣り上げて、オロオロし始めた。

ママはパパの腕にぴとっとくっついて、上目遣いでパパを見上げた。
「……章(あきら)さん、私のことは、野放しでしたよね?」

うっ……と、パパは言葉につまって、気まずそうな表情になり、それから私に助けを求めた。

……やれやれ。

「大丈夫よ。私より、光くんが心配。同じクラスになれるといいんやけど……。」



光くん一家が神戸に帰って来てから3年。
一緒に遊ぶ機会が増えて、すーっごくうれしいんだけど……心配も増えた。

確かに、光くんは問題児だった。
自閉症と言われるのも、仕方ないと言わざるを得ない。

ほんっとに、家族や私達、空手教室のかたがた以外のヒトとは口もきかないんだもん。

空気を読めずに話しかけてくるヒトからは、マジで逃げ出すし。
時と場合を選んでくれればいいけど、ところかまわず常に人見知りモードだから……悪意はなくても軋轢も起こる。

光くんのパパもママもお仕事があるから、おばあちゃんと薫くんがずーっとつきっきりでフォローして回ってるみたい。

及ばずながら、私もしょっちゅう光くん家を訪ねて一緒に過ごした。
……まあ、私の場合は、光くんのそばにいることそのものが目的だったけど。



「じゃあ、いってきまーす。」
新しい革の鞄と、ファミリアのバッグを掴んで、出発。

「いってらっしゃい。」
「式には間に合うように行くからな。」

パパとママに見送られて、くすぐったい気持ちでうなずいた。

幸せ。
当たり前じゃないこの幸せに、感謝の念でいっぱい。

ピカピカの革靴は、京都のデパートから届けられたもの。
ママが「足長おじさん」と呼ぶヒトからのプレゼント。

たぶん、私の遺伝子上の父親かその近親者なんだろうけど、詮索はしない。
ただただ、感謝してる。

……それが、今後も家族になることのない父親というヒトに対する、私のたどり着いた結論だった。
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