小夜啼鳥が愛を詠う
……何だか、私、朝秀先生のことを、はじめて身近に感じた。
最初から、こんなところを見てたら……好きになったかもしれない。

ぼんやりとそんな風に思うほど、好(す)いたらしかった。

「お2人が好きになるって、どんな女性なんでしょうね。……て、2人とも、振られたんですか?あ。選び切れなかったとか?」

こんなに素敵な男性2人から愛されたのに……と、私はまた余計なことを言ってしまったようだ。

朝秀先生は苦笑いして、坂巻さんは仏頂面になった。

「……誰に言われるより、ムカつく。」
坂巻さんはそうぼやいた。

意味がよくわからないけど、酔っ払いの戯れ言だろう。
パパも酔うと、筋の通らないこと言ってるし。

「孝義、絶対酔ってる。……ごめんねー、桜子ちゃん。一応ね、孝義は彼女とつきあったんだけどねー、彼女、子供の頃から好きなヒトがいてさ、こいつもお堅い奴だから、結局、形だけで終わったというか……。」

朝秀先生の言わんとすることは、つまり……そーゆーことはしなかった、ってことなのかな。

「あー、うるさいうるさいうるさい。」

坂巻さんはそう言って、グラスに焼酎をドボドボついで、一息に煽った。

……うわぁ。
やけ酒みたい。

「昔の話をいつまでも。独身のお前と違って、そんなもん、とっくに忘れた。なかったことや。」

ん?

今の……え?

あれ?

坂巻さんって、既婚者なの?

びっくりした!

「いくつで結婚したん?」
薫くんが変なところにくいついた。

坂巻さんは、めんどくさそうに答えてくれた。
「2年前。院生の時。」

「学生結婚!俺んとこの親と一緒!」

……そう言えばそうね。

「えー、できちゃった婚?」
薫くんは、はしゃいでるように見えた。

対照的に、坂巻さんは淡々と言った。
「いや。……絵に描いたような、政略結婚や。父親に癌が見つかったからな、早々に次期体制を整える必要があってんわ。」

薫くんの笑顔が、すーっと消えた。

……さすがに、それは……重っ。

固まる私たちに、朝秀先生が苦笑した。

「孝義。その言い方は、ちょっと。夢ないわ。……寺を守ってくれそうな、しっかりしたお嬢さんと、お見合い結婚した、でいいやん。しかも、俺の目から見ても、充分すぎるぐらい仲睦まじいやん。」

朝秀先生のフォローに、坂巻さんは笑顔なくうなずいた。

「当たり前や。結婚するて決めた時から、裏方は唯一無二の女や。一生、敬愛の対象や。実際、よぉやってくれてるしな。」

……敬愛?
恋愛感情じゃないの?

ますます言葉をなくした私を、気がついたら、薫くんが支えてくれていた。

それだけで、何となく心が温かくなる気がした。
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