小夜啼鳥が愛を詠う
「照れ隠しって思ってて。ほんまにうまくいってるし。あんまし仲良しやと子供を授からへん、って言われてるぐらい。なあ?」

朝秀先生は、何とかその場を納めようとしていたのだと思う。

でも、坂巻さんはそーゆー上っ面だけ体裁を整えるタイプではないらしい。

「いや。裏方の体調が思わしくなくてな。……もしかしたら、実子は無理かもしれん。まあ、別家から養子に来てもろたらええ話や。前の猊下も養子やから、それでかまへん。」

……重い。
重すぎるよ、坂巻さん。

いや、坂巻さんのお人柄はわかるけどさ。

なんてゆーか……嘘のない、誠実なヒトなんだろうな……あの光くんが懐くぐらいだし。

でも、堅物過ぎて、おもしろみはないかも。
しかも、迫力があって怖いし……。

「別家って、藤やん?……藤やん、猊下の子ぉになるん?次の猊下?」
薫くんが不安そうにそう尋ねた。

そうなの!?
……え?マジで?

藤巻くんって……そういうお家の子……なのか……。

さすがに、びっくりした。

あ……それで……。

何年もお付き合いしてるのに、いつまでも玲子さんが御院さんと結婚しないのって……そういうこと?

坂巻さんも、お見合い結婚だったって仰ったし、やっぱり未だに個人よりお家……この場合は、宗派?……が優先される世界なんだろうなあ。

「ああ。そうか。藤巻の清昇を知ってるんやな。……そうやな、もし養子を求めることになったら、白羽の矢が立つのは清昇やな。」

薫くんはそれを聞いて目に見えてしょんぼりした。

「なんや。淋しいんか。……別に今すぐの話やないわ。心配せんと、仲良ぉしたってくれ。まあ、ほんまは藤巻のオヤジさんには本部に戻って、助けて欲しいけどな。」

半笑いで坂巻さんはそう言った。

わかりやすく落ち込んだ薫くんを可愛いと思ったようだ。
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