小夜啼鳥が愛を詠う
「うん。仲良しやで。中学行ったら、一緒にサッカー部入るねん。一緒にボランティアもするねん。桜子も!な?」

薫くんに元気が戻った。

「……ボランティアて……別院でか?」
坂巻さんが、驚いたように私に尋ねた。

「はい。冬休みにお手伝いさせていただくことになりました。交通費とお昼をごちそうになる予定なので、厳密にはボランティアじゃありませんが。」

苦笑しつつそう返事すると、坂巻さんはわざわざ正座し直して、手をついてお辞儀した!

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」

え!

何!?

急に、別人なんですけど!

生まれながらの王族のように尊大な態度だった坂巻さんが、急に、行儀作法の先生のように美しい所作でそうご挨拶してくださった。

恐縮して、私も慌てて見よう見まねで頭を下げた。

……遊び気分じゃダメなんだ、って改めて気合いが入った。




翌早朝、私達が起きる前に、坂巻さんは帰られた。

登り窯で夜を明かした光くん達には挨拶して行かれたらしい。

「まだ若いのに既に貫禄というか……立場が人を作りよーねんろうねえ。」

光くんママは、感心というより同情しているらしい。
帰りの電車の中で、ため息まじりにそう言っていた。

「教団の歴史と信者さんの数が常に両肩に乗ってるんだろうね。坂巻先輩、気苦労多そう。ほんと、嗣がなきゃいけないモンを背負って生まれたヒトは大変だね。」

しみじみと光くんがそう言うと、薫くんも、野木さんも、私も、怪訝な顔になった。

「小門兄弟のお父上もそうだと思うが……てか、小門兄は、会社を継がないのか?」

野木さんが、恐れ知らずにもそう聞いてくれた。

……正直なところ、私自身もずっと気になっていた質問だ。

小さい頃は、当たり前に、光くんが頼之さんの後を継ぐと思っていた。
でも、頼之さんと光くんに血のつながりがないというなら……戸籍上は次男の薫くんが継ぐ可能性も高いのかもしれない。

もちろん、小門家の人たちはみんな光くんのことを愛してるから廃嫡しようとは思わないだろうけど、光くん自身、どう見ても会社経営に意欲的とは思えない。

ナイーブな問題を、無頓着に聞いた野木さんに、光くんもまた、ギャラリーが拍子抜けするほどにあっさりと答えた。

「継がないよ。柄じゃないし。会社のためにも、薫のほうがいい。頼んだよ、薫。」

「へ!?」
薫くんは、初耳だったらしく、本気で驚いていた。

光くんママは無言で成り行きを見ているつもりらしい。

「何で!?何で、俺なん?みんな、光に期待しとるのに。」
薫くんは光くんにそう問いただした。

……まあ、光くんが頼之さんの子供じゃないって知らない社員さん達は、連珠や囲碁のタイトルホルダーの光くんに期待してるのかもしれない。

でも、光くんは……。
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