小夜啼鳥が愛を詠う
「でも、僕、パパやおじいちゃんみたいにはなれないよ。ごめんねー。薫に苦労かけちゃうけど。よろしくね。」

返事に窮している薫くんに、たたみかけるように光くんは言った。

「薫は、僕よりずっと会社経営に向いてると思う。ね?ね?ね?」

光くんは、ママと野木さんと私に、確認を取ろうとした。

光くんママは微笑し、野木さんは首を傾げ、私は……うなずいた。

だって、本当にそう思ったんだもん。

「……でも、光は?どうするん?……てっきり入社して、ずっと家にいるつもりや思っとったのに。」

困惑する薫くんに、光くんは首を傾げながら言った。

「んー。あ。そうだ。僕、純喫茶マチネを手伝おう。マスターのコーヒー大好き。いずれは、お店を譲り受けようっと。」

最後はウキウキと声を弾ませた光くんに、薫くんはムッとしたらしい。

「何やねん、それ。ふざけんな。」

あ、険悪ムード。

「光くん。先走りすぎ。あのお店はパパの宝物でライフワークだから、そんな軽い気持ちでいたら、絶対怒られるよ?」

私は慌てて牽制した。
でも光くんは、いけしゃあしゃあと言った。

「だって、小門の会社には薫がいるけど、古城さんにはさっちゃんしかいないじゃない。いずれは、不動産は管理会社、純喫茶マチネは店長を雇うことになるんだろうし、それなら、僕のほうが大事にするよ。」

……嘘でしょ。

そんなことを考えてたなんて、聞いたことない。

光くん、どういうつもりで、そんなことを言うの?

「婿養子?マスオさん?」

野木さんの問いは、ますます薫くんをイラつかせてしまったようだ。

「あほか!光、無責任や!楽(らく)しようと思とんな!」

「……はいはいはい。電車の中で騒がない。そんな大事な話、感情的にするんじゃない。光も。独りで勝手なこと言ってないで。マスターだって迷惑よ。」
光くんママがそう止めてくれた。

「小門兄弟が兄弟喧嘩した……。」
「え?今のって、喧嘩なの?私も2人が喧嘩してるとこなんて、見たことないわ。すご~い。」

野木さんと2人でそう言い合ってると、光くんと薫くんは気恥ずかしくなったらしく、口をつぐんでそっぽを向いた。

ひや~。

こんな2人、本当にはじめて。

新鮮だわ。
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