小夜啼鳥が愛を詠う
……どうしよう。
言っちゃっていいのかな?

藤巻くんが……猊下の……坂巻孝義さんの、養子になる可能性もなきにしもあらず、ってこと。

モジモジしてると、さらりと薫くんが言ってくれた。
「孝義………さんが、ゆーとった。孝義さんに子供できよらんかったら、藤やんが次の猊下やて。……そしたら、藤やんも、孝義さんみたいに政略結婚やろ?御院さんも、政略結婚ゆわれるんちゃうか?」

……さすがに極端すぎるかな……。

薫くんの言葉を客観的に聞くと、そんな風に思えた。

でも、藤巻くんは無表情のまま肯定した。

「薫から聞きました。猊下にお会いしたそうですね。……僕の立場では今は何も申せません。御裏方さまが無事にご懐妊されて、御曹司をご出産されるのを祈るばかりです。……けど、僕も、父も、御本家さまの男子が途絶える時が来たら、身を挺してご尽力することが役目です。生まれた時からの定めです。覚悟はできてるつもりでした。……でも……。」

藤巻くんの目が揺れた。

「でも、僕も、父も、……母のいない家庭は淋しい、って口にすることすら憚られてましたけど、本当は……。砂をかむような毎日に彩りをくれたんは、玲子さんです。」

玲子さんは、泣きそうな顔をした。
「清昇くん……。ありがとう。」

「いや。感謝してるのは、私と清昇のほうや。ほんまに。せやのに、あんたにばっかりつらい想いさせてるんが、申し訳なくて。」
いつから居たのか、ドアに手をかけたままの御院さんがそう言った。

「御院さん……。そんな、もったいない……。私は、お二人から過分なまでのお心を注がれて……もう、充分です。」
玲子さんの瞳から涙がこぼれた。

……あ……玲子さんも、私とおんなじね。

大好きな、心から頼れる存在がそばにいると、張り詰めた糸が切れて、泣いちゃうのかもしれない。

私は、いつの間にかまた私の背にそっと添えられた温かい手を感じながら、そんなことを思っていた。

……大好きな、心から頼れる……薫くんの手のぬくもり……。
そっと、目を閉じた。
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