小夜啼鳥が愛を詠う
午前中は、お若い僧籍の職員さんから宗旨や教団についてのレクチャーを受けた。
ご奉仕の人達には、必ず受けてもらう研修なのだそうだ。
知ってて当たり前な藤巻くんも、真剣に聞き入っていた。

お昼前に、車で例の洋館へと移動すると、なんとクリスマスツリーか飾られていた!

「……ここ、お寺よね?いいの?」
藤巻くんにそう確認した。

「もはや、宗教行事ではなく季節のイベントやから。……さっき女性職員がクリスマスソングを口ずさんでたし、三時のおやつは、毎年、クリスマスケーキやと思う。」

しれっと藤巻くんはそう言った。

「ええ。毎年、24、25、26日までは、黙々とケーキをいただくことになるわね。それでも食べ切れないわ。……さっちゃんも薫くんも、いっぱい食べてね。」

玲子さんの言葉に、薫くんがうれしそうにうなずいた。

てか、お昼も豪勢だった。
最寄りホテルからのケータリングかな。

「毎日こうじゃないですよね?これ、初日だから、特別ですよね?」

ものすごく気を使ってもらってるような気がして、私は恐る恐るそう尋ねた。

「んー。んー?まあ、初日ゆーより、クリスマスイブやから?クリスマスパーティーや。」
御院さんはニコニコそう言った。

クリスマスパーティー……。
マジで?

はしゃぐ薫くんに釣られてか、藤巻くんもすごくうれしそう。
彼らを目を細めて見ている御院さんと玲子さんは、どこからどう見ても仲良し夫婦に見えた。

「……御院さんと玲子さん、本当に結婚しないの?すごくお似合いなんだけど。」
一通りのお料理を頂いて落ち着いたところで、私は玲子さんにそんな風に聞いてみた。

玲子さんは苦笑した。
「まだ、言う?……今朝、わかったでしょ?私がいかに受け入れられてないか。」

御院さんも沈鬱になっちゃった。

「お二人がご結婚できる方法はないんでしょうか。」
私はもう一度、今度は御院さんに尋ねた。

御院さんは、玲子さんを見て、それから藤巻くんを見て、ため息をついた。
「私がこの職を辞して、別の土地へ移動すれば、少なくとも今よりは玲子さんヘの風当たりも強くないと思います。」

ハッとしたように薫くんが藤巻くんを見た。

藤巻くんは苦笑して、薫くんにうなずいて見せた。

「どこ行くん?遠いとこ?藤やんもやんなあ?」

薫くんにそう聞かれて、御院さんは慌てた。

「いや。決まってない。京都に戻るにしても、東京や東北に行くにしても、先方が円満退職か栄転しない限り、私の都合で追い出すみたいで行けへんし。……玲子さんは、神戸を離れたくないやろし。」
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