小夜啼鳥が愛を詠う
はがれた至情
クリスマスイブには奇跡が起こる……。

イエス・キリストに何の敬意もない私だけど、今年だけは神様の奇跡を信じたい。

鳴れ!幸せの鐘!

にわかクリスチャンとなった私は、つないだ薫くんの手ごと両手を胸に組んで祈った。

「左遷は、困ります。……私のせいで、御院さんのお立場が悪くなるのは……これ以上もう……」

玲子さんの返事は、私には否定的に聞こえた。
てか、たぶん、玲子さんも肯定的に返答したわけじゃないと思う。

御院さんも、藤巻くんも、玲子さんの言葉に愁眉を開かなかった。

でも、薫くんだけは違った。
まるで空気が読めてないかのように、明るい声で言ってのけた。

「やった!ほな、決まりや!結婚や!」

……えー……っと……。

さすがに誰も同調することができず、薫くんは一身に変な視線を浴びた。

でも薫くんは怯まなかった。
むしろ胸を張って言った。

「なんなん?なんで?……左遷じゃなくて、普通に転勤やったら結婚するって意味やろ?」

玲子さんはムッとしたらしい。

「あのねえ。ワケあり再婚を理由に異動とかできるわけないでしょ。あんたん家(ち)の会社より、ずっと規模の大きい組織なのよ。」

でも薫くんは私の手を取って、ぶんぶん振り回しながら言った。

……テンション上がってるのかな?

「えー。でも、猊下ゆーてたで。御院さんに京都の本部に戻ってきてほしいって。ちょうどええやん。」
「……猊下が……。いや、でも、代替わりされて2年もたつし……今さら私のようなロートルがお役に立てるとは……」
「ロートルってなんや?田舎モン?」

薫くんには、御院さんの言葉が理解できなかったらしい。
てか、薫くん……それ、たぶん、ローカルだわ。

「老人って意味。……でも、御院さん、まだそんな風におっしゃるお歳じゃないのに……。」

玲子さんがそう言ったら、薫くんだけじゃなく、藤巻くんもうなずいた。

御院さんだけが、腑に落ちないらしく、首を傾げてらした。

「……徳川家康が秀忠の補佐に本多正信を付けたのと同じじゃないですか?坂巻さん、ストレスがたまってるって仰ってました。気心の知れた、ベテランの御院さんに、そばにいて助けてもらいたいんじゃないでしょうか。」

私は、漠然と感じたイメージでそう言ってみた。
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