小夜啼鳥が愛を詠う
成之さんにはあんなにズケズケと居丈高に吠えてた玲子さんが、御院さんの前ではまるで子供のよう。
確か、年齢は玲子さんのほうが上だったと思うんだけど……

「よっしゃ!うなずいた!はい、決定!おめでとう!玲子!御院さん!藤やん!」

強引にそうまとめた薫くん。

なるほど。
空気がよめないんじゃなくて、優柔不断な2人をくっつけようと、無理やり前向きに盛り上げてたのね。

さすが、薫くん。
コミュニケーション力の高さは折り紙付き。
いや、三つ子の魂百まで、かな。

たぶん、人見知りな光くんの分まで、周囲と折衝してきたんだろうな。

「……強引な奴。」
玲子さんは、呆れたようにそう言ったけれど、すぐにほほえんだ。

「でも、それでいいわ。もう。……ありがとう。」

薫くんにそう言ってから、玲子さんは御院さんを見つめた。

御院さんの手がぎこちなく伸びる。
玲子さんに、そっと触れた御院さんは、やっとホッとしたように頬を緩めた。

藤巻くんは言葉も出ないらしく、ただただうれしそうに、ぴょんぴょんとその場で飛んでいた。

もう、大丈夫。
時がくれば、解決するはず。

でも、これってクリスマスイブの奇跡……ではないね。
全部、薫くんの策略というか、誘導というか、口車というか……。

いずれにしても、薫くんの功績だわ。

「薫くん、ありがとう。」
そうお礼を言ったら、薫くんは不思議そうに首を傾げた。



その日の夕方は、玲子さんではなく、薫くんに送ってもらった。

「玲子。明日は同じ服で出勤やな。明日は来ぉへんけど、見に来ぉかなー。」
ニヤニヤと薫くんがそんなことを言った。

「薫くん、すけべー。エッチー!もう!……てか、お家に藤巻くんもいるのに、お泊まりできないでしょ?」
「……そっか。藤やん、うちに泊まるように誘ったらよかった。あ。寄り道しよ。純喫茶マチネ。コーヒー飲みたい。」

薫くんはそう言って、私の手をグイッと引いた。
曲がろうとしてた角で曲がらせてもらえず、勢い余ってバランスを崩したけど、薫くんがさっと支えてくれた。

「あー、びっくりした。ありがと。……薫くん、身長だけじゃなくて……筋肉もついてる……。」

今さらだけど、胸板とか上腕二頭筋とか広背筋とか……ちょっと前は、もっと華奢だったよねえ?

「そりゃ。鍛えてるもん。ずっと空手やっとった光に負けたくないし、筋トレしてる~。」
薫くんは自慢気にそう言って、右腕を曲げた。

……力こぶを見せてくれてるつもりかな?
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