小夜啼鳥が愛を詠う
「ダウンジャケットで全然わかんないけど。」
「触って。」

薫くんは、ダウンの袖をまくってから、私の手を自分の腕に置いた。

うわっ。
何これ。

力こぶって、こういう感じなんだ。

……うん。
ふにっとしてるようで、かたい。

おもしろーい。

感触が楽しくて、私はさわさわと触りながら歩いた。


「何てゆーか……年齢差が逆転しとるように見えるんやけど。ちっちゃい子が父親に甘えてぶら下がってるみたいな?」

不意に後ろからそう言われた。

びっくりして振り返ると、菊地先輩と椿さんが半笑いで立っていた。

お世話になってる菊地先輩に揶揄されて、薫くんはちょっと赤くなって、会釈した。

私は慌てて薫くんから手をはなした。

「まあ、ぶら下がるほど身長差はないけど。」
椿さんはそう言って、おもむろに左手の甲を顔の横に並べた。

なに?

よく見ると、椿さんの白い指に……それも、薬指にキラリと光る指輪!
立て爪のダイヤモンドリングに見えるんだけど。

「え!?どうしたの?それ。菊地先輩からのクリスマスプレゼント?素敵!」

椿さんは、珍しく、えへへへ~と相好を崩した。
いつものクールビューティーとまるで別人かも。

「クリスマスプレゼントは、こっち。」
菊地先輩はそう言って、椿さんの髪を手櫛で梳くように耳にかけた。

椿さんの白い耳朶に、キラッと赤い石が光った。

「わ!綺麗!……ガーネット?」

ルビーよりも暗褐色の深い赤い宝石に見えたので、私はそう聞いてみた。

「ねー。私もそう思った。でも、違うんだって。何だっけ?ピジョン……」
「ピジョンブラッドルビーや。鳩の血って覚えとけ。」

菊地先輩はサラリとそんなことを言ったけど、それって、めっちゃ高価な宝石よ?

「……えーと……部活もあるし、バイトとかできはりませんよね?菊地先輩。……てか、高校生のバイト代で買えるレベルじゃないような気がするんですけど……それ……。」

思わずそんなことを言ってみたけど……2人とも、かなり裕福なお家の子だってことに途中で気づいた。

私の初対面の印象はケダモノパイセンだったけど、今は、年相応に性欲旺盛な肉食系男子だとわかった。

なんだかんだ言っても、造り酒屋の跡継ぎだし、お育ちは悪くないのよね……菊地先輩。
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