小夜啼鳥が愛を詠う
「バイトなんか一生せんわ。でもちっちゃい頃から仕込みも販売もやっとー。……これは、ばあちゃんにもろた。もともと指輪やったけど、椿によぉ映えるからピアスにしてもろた。」

なるほど。
おばあさまのねえ……。

椿さんは頬を染めて、菊地先輩を見上げた。

……い~い雰囲気。
ラブラブ、だぁ。

「指輪は?結婚するん?」
薫くんがそう聞いた。

……いやいやいや。

椿さん、これから音楽学校入るし。
てか、菊地先輩だってまだ18歳になってないはず。
さすがにそれはないわ……。

でも、菊地先輩はニヤリと笑ってうなずいた!

え!?
結婚!?
すみれコードは!?

びっくりして、椿さんを見た。

椿さんは、軽く菊地先輩を小突いた。

「もう!誤解を招く発言禁止!……ほんまに、やめてーよ。もちろん今じゃないわ。これから音校受験して、入学して、2年後に歌劇団に入団して……最低でも9年後。もし私が上手く上げてもらえたら15年後ぐらい?」
「15年……。」

さすがに長過ぎない?……それ。

薫くんは言いにくそうに尋ねた。
「……それまで続くん?」

失礼ながら、私も薫くんと同じ気持ちだったので……つい、つられてうなずいてしまった。

でも菊地先輩も椿さんも、別に怒らなかった。

「うん。私も。そう思う。だから、ね?」
椿さんは、再びサッと左手をあげて、指輪をアピールした。

「続かへんかもしれへんけど、結婚の約束したってこと?」

薫くんがそう尋ねると、椿さんはうなずき、菊地先輩は嘯いた。

「まあ、質札みたいなもんや。うちの、おとんもおかんも、じいちゃんもばあちゃんも、椿のこと気に入っとんねん。せやし、ツバ付けときたいんやろ。」

「しちふだ……」

今時、質札なんて言われても、よくわからないんだけど。

「そうそう。有名人の嫁が来たら、それだけで蔵の宣伝になるし。ね~?」

椿さんはそう言って、菊地先輩の腕に頬をすりつけて甘えた。

「そういうこっちゃ。もちろん、合格したらスポンサー契約して、経済的支援もするし。」

2人ともずいぶんと打算的な言葉を連ねてるけど……どう見ても、2人はラブラブなのよねえ。

変な強がり言わなくてもいいのに。
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