小夜啼鳥が愛を詠う
薫くんも同じように感じたらしい。
2人とバイバイした後、薫くんは首を傾げた。

「何で、わざわざお互いに憎まれ口ってゆーか……変な理由を後付けするんやろう。オトナの駆け引きってやつか?」

「あー……わかんないよね。でも、2人はお互いに、そーゆーのが居心地いいみたい。似てるんでしょうね。」

答えになってない。
でも、正直なところ、私にもよくわからないんだもん。

すると薫くんは肩をすくめて、それから私の手をぎゅっと握って笑顔で言った。

「俺は、素直で優しい子ぉがいいな。桜子みたいな。……てか、桜子がいい。」

……うっ!

薫くん……それは……告白だよ、もう。

いや、今までだった、さんざん似たような……というか、あけすけに愛情表現してくれてるんだけどさ。

何てゆーか……もはや、かわいい子供の戯言じゃない。

ドキドキする……。

どうしよう。
何か言わなきゃ。

えーと……えーと……

私は一生懸命、素直な心を紡ぎ出した。

「私も!」

自分の言葉に驚いて、私はそのまま口をつぐんだ。

あれ?
私、今、何て言おうとした?

私も……薫くんが……いい……?

え……。

あれ?
 
……ええっ!?

さすがにそれ以上、何も言えなくなってしまった。

どうしよう……。

恥ずかしくて、困ってうつむいてると、薫くんが私の手を取った。

いつものことなのに……やばい。
ドキドキが止まらない。

私……ものすごく意識してる。

薫くんのこと……好き……。

好き……?

いや、もちろん大好きだけどさ。

えーと……男性として……?

好き?
好きなの?

やばい。
頬が熱い。
私、たぶん……赤くなってる……。

薫くんは、つないだ手をぶんぶん振りながら、言った。

「だよな~。光も、桜子には素直だよな。」

……。

冷水を浴びせられた……ような気がした。

「……そうね。」

何とかひねり出した返事は、感情のないものだった。

今、自分の中で、ようやく形になりそうだった大切な……本当に大切な、私の想いは、当の本人に打ち砕かれてしまった。

薫くんは、私が今も光くんのことを好きって思ってるんだ。

……いや、確かに、好きよ。
ずっとずっと大好きだった憧れの、初恋のヒト。
危うくって、ほっとけなくて、守ってあげたいヒト。

でも……もう、私……光くんに、期待するの、やめたのに……。

光くんが、私のことを女性として好きになることなんて、絶対にないのに。

なのに、薫くんは……それでも、私が光くんをあきらめてないって思ってるんだ……。

違うのに。

どう言えばいいんだろう。

どう言えば、わかってもらえるんだろう。
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