小夜啼鳥が愛を詠う
悶々としてるうちにパパのお店に到着した。

「こんにちはー。」
薫くんがそう声をかけながらドアを開けた。

「いらっしゃいませー。……て。なんだ、薫か。」

ヘ?
この声?
光くん?

驚いて、光くんの背中から顔を出してお店を覗き込んだ。

わ!
光くんが、ギャルソンだ!

びっくりした。

髪を後ろに撫でつけて、いつもよりオトナっぽくて、セクシー。
白いシャツの袖を少し上げて、顔に合わない綺麗な筋肉質の腕をちら見させてるし。
黒いギャルソンエプロンがまた、かっこよくって!

「光!?何、しとんねん!」
薫くんの目が三角になった。

怒ってる怒ってる。

私同様、薫くんも何も聞いてなかったみたい。

「パパ?……光くんにバイト頼んだの?」

兄弟喧嘩の勃発を防ごうと、私はカウンターの向こうから手を振ってるパパにそう聞いてみた。

「……いや。頼まれたんだよ。今朝、急にやってきて無償で手伝うって言うからさ。ボランティア?」

パパの説明に、光くんが笑顔でうなずいた。

「明田さん、パリに行っちゃったんだよね。冬休み、暇だし。ここなら、すぐ近くに碁会所もあるし。さっちゃんとも逢えるし。」

最後に付け加えた言葉に、パパと薫くんが過剰反応してる……。
光くん……もしかして……確信犯なのかな。

「暇、ねえ。……光くん、一生、暇って言ってそう。パパ。ボランティアだからって甘やかさないで、ちゃんと厳しく指導してあげて。そのほうが光くんの為だから。」

珍しく光くんに厳しい私に、パパが目を見張った。

「……わかった……けど、光くん、人見知りだからか、お客さまに対してはめちゃくちゃ丁寧で、文句の付けようがなくってね。」

パパに褒められて、光くんは得意げに胸を張った。

「え?人見知り、克服できそうなの?それは、すごい!光くん、どうしたの?心境の変化?」

そう聞いてみると、光くんは首を傾げた。

「うーん。どうかな。……いや、薫のおかげかな?」

「へ!?なんで?」

身に覚えがないらしく、薫くんがそう聞いた。
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