小夜啼鳥が愛を詠う
光くんはニッコリほほえんで、自分の左肩上空を指さした。

「よくわかんないんだけどさ、このへん?たまにあったかいんだよね。彩瀬パパかなーって。」

「え!」

薫くんが慌てて手を伸ばして、光くんの肩の上の空気を払った。

「ここ?このへん?いるん?」

「さあ?でも、見守ってくれてるのかなーって思うと、ね。……何となく、怖くないって気分?」

光くんはそう言って、私たちをカウンターに誘った。

「どうぞ。いつものブレンドでいい?」

私も光くんも、黙ってうなずいた。

光くんは、笑顔でうなずいて、パパに言った。
「マスター。ブレンド2つお願いします。」

「……喜んで~。」

まるで執事カフェのように端正な光くんに対して、パパは居酒屋のようにそう言った。

何だか不思議な2人の関係が新鮮だった。

他のお客さまの手前、光くんはそれ以上、私たちに話し掛けることはなかった。
黙々とテーブルを片付け、レジを打ち、常連さんの言葉に笑顔を浮かべて返事していた。

「……光が別人みたいに見える。」
「うん。私も。」 

薫くんとそう言い合ってると
「俺も。……午前中に来てた成之もぽかーんとしてたわ。会社帰りに、頼之くんとあおいちゃんも来るってさ。」
と、パパが寄ってきた。

「そうなんや。ほな、ココで待ってよーっと。」
薫くんはそう言って、足をぶらぶらさせた。

……こういうところは、普通に小学生男子だわ。

かわいいな。

何だか、つい見とれて、ニマニマしてしまった。



18時前に、光くんのパパとママがやって来た。

パパの頼之さんは、光くんの突然の行動の理由が気になるようだった。
でも光くんママは、息子のギャルソン姿がツボだったらしく、手を打って大笑いして……その後もずっとニヤニヤしていた。

「お義母さんも見たがる思うわ~。帰ったら、教えてあげようっと。」

光くんママがそう言ったのを聞いて、薫くんが思い出したように口を開いた。

「あんな、玲子が御院さんと結婚するねん。せやし、おじいちゃん、うちに帰って来ぉへんかなあ。」

「……え……。玲子が!?」
真っ先に反応したのは、私のパパだった。

……普段、お客さん同士の話に立ち入らないようにしてるはずなのに……。

パパは慌てて口をつぐんだけれど、その頬が少し赤かった。
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