小夜啼鳥が愛を詠う
成之さんは、無表情のまま深い息を吐いた。

そして真澄さん……光くんのおばあちゃんは、何も言わずにかすかに微笑した。

「ほんまや。御院さん、おじいちゃんに挨拶したいゆーとったで。」

薫くんがそう言うと、成之さんはばつが悪そうな顔になった。

……そりゃまあ、嫌だろうな。

言わば、捨てた愛人を引き受けてくれた、新たな男からの挨拶を受けるとか。

「まあ、最後のお勤めやと思って、オトナの挨拶したら?……玲子にはとっくに親も親戚もいいひんから、お前が親戚代わりってことで。」

パパが無責任にそんなことを言ったら、成之さんは不満そうに言った。

「親戚代わりならお前のほうがふさわしいだろ。……いや……わかってるんや。ケジメはつけるつもりや。」

そうして、光くんのおばあちゃんのほうを向いた。

「……そういうことらしい。今まで勝手しといて、図々しいけど……全部済むまで、待っててくれるか?」

「別に今日からでもいいのに。ほんま、意地っ張りやな、社長。」
頼之さんが無表情に突っ込んだ。

成之さんは頼之さんをじっと見て、それから言った。

「……頼之くんが、『社長』じゃなくて『お父さん』って呼んでくれるなら、帰る。」

「はあっ!?」
頼之さんはみるみる赤くなった。

「なんやねん、それ。子供かよっ!……ざけんな。今さら……」

いつもと違う頼之さんの乱れた言葉に、何だか泣けてきちゃいそう。
実の父子なのに、親子関係をまともに構築できなかった2人が歩み寄ろうとしてる……これもクリスマスイブの奇跡かもしれない。

ずっと黙ってたおばあちゃんが、ふふっとかわいく笑って、口を開いた。

「そうね。今さら、ね。……ごめんなさいね。頼之にはずっと淋しい想いをさせたのに……今さら申し訳ないけど、成之さんを父として受け入れてくれないかな?」

頼之さんは、ちょっとくやしそうに言った。
「……受け入れるも何も、ほんまの父親やん。別居してても、ずっと養ってくれとったし、会社でも……俺は一社員やけど、あおいにはよぉしてくれとるし。」

成之さんの目が潤んだ。

おばあちゃんは、そっと手を伸ばして、成之さんの手に触れた。

「頼之もああ言ってくれたことだし、私達……35年ぶりに、新婚生活の続き、やり直しましょ。」
< 160 / 613 >

この作品をシェア

pagetop