小夜啼鳥が愛を詠う
薫くんの手。
ちっちゃな紅葉だったのに……おっきくなったなあ。 

生まれた時から知ってるだけに、しみじみと成長を実感するわ。

まさか、こんな気持ちになるなんて、ね。

照れと感慨深さでなかなか手を出さない私にしびれを切らしたらしく、薫くんは強引に私の両手を持った。

……赤ちゃんみたい……てか、昔、薫くんが立つ練習するの、私がこうして両手をとってあげたっけ。

そんなことを思い出してると、薫くんが笑って言った。

「……介護みたい。」

介護!?

……赤ちゃんじゃなくて……介護……。
うわ……それ、かなり……ショックかも。

「介護……。」

泣きそう。

しょんぼりした私に、薫くんはギョッとしたらしい。

つないだ両手をぶんぶんと振り回して、薫くんは言った。

「桜子はおばあちゃんになっても、かわいいやろな。俺が介護したるわ!」

……ううう。

うれしくない。

いや、薫くんの気持ちはわかるのよ。
でもね、やっぱり5歳の年の差があるからね……けっこう……堪えるわ。

私が成人式のとき、薫くんは高校受験?

薫くんの学ラン……カッコイイだろうなあ。

はっ!

サッカー部で活躍とかしちゃったりしたら、薫くん、めちゃめちゃモテちゃわない?
 
……若くて可愛い女の子が、薫くんにアプローチしてきたら……この、普通にエッチな男の子は……あああああっ!

「薫くんて、学校でモテるんでしょうね。」

……落ち込むと、ついつい思考がマイナスの方向へと発展してしまうみたい。
 
突然そんなことを言った私に、薫くんは胸を張った。

「まあな!」

……あ、そう。
そうですか。

まあ、そうでしょうね。

ねじくれそうな心を隠して、何とか笑顔を取り繕った。

「もしかして、つきあってる女の子もいたりするの?」

声が……変になっちゃった。

薫くんは、顔をしかめて首を振った。

「ないわ。偉そうなんも、生意気なんも、逆にウジウジしてるんも苦手やもん。」

そして、私を見て、自然と笑顔になった。

「桜子みたいに優しくてかわいくてしっかりしてるのに守ってやりたい女、他にいいひんわ。」

ぐっ……と、心臓を鷲掴みにされたかと思った。

苦しいほどにドクドクいってる。

……私は……薫くんにとって、理想の女の子なのかな。

じゃあ、私に似た子が現れたら……薫くんはその子を好きになっちゃうんだろうか。

私は?

私のことは、どこまでも対象外なの?

どうすれば、私は……薫くんの唯一無二になれるのだろう。
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