小夜啼鳥が愛を詠う
小一時間で、坂巻さん一行は下山されてきた。

ちょうどお昼時だったので、玲子さんは気を利かせてお昼ご飯を手配していた。

坂巻さんと御院さんは、2人っきりで食事しながら、件(くだん)のお話をされた。

途中で、玲子さんが呼ばれて入室した。


13時前に、坂巻さんは辞去された。

車に乗り込まれる前に、坂巻さんはもう一度お山の洋館を見上げて合掌して、それから見送る職員一同にお辞儀して帰ってった。

「……なんか、別人……。」

私のつぶやきは、薫くんにしか伝わらないと思ったのだけど、御院さんも素の坂巻さんをご存じらしい。
 
「擬態ですよ。お小さい頃から我慢強いかたでした。まだお若いのにお一人でよく耐えてはりますわ。……私の事情をお話すると、むしろ仏のお導きだと感謝していただけました。本当にありがたいことです。」

御院さんはそう言って、手を合せてらした。

「え!てことは!?」
思わず声が弾んでしまった。

けど、他の職員さんに聞こえるとまずいかと、慌てて口をつぐんだ。

御院さんは、微笑してうなずいた。
 
玲子さん!よかった!……あれ?
……いない。

キョロキョロしてると、藤巻くんが小声で教えてくれた。

「玲子さん、泣いちゃった。」

あー……。
そりゃそうだよね。

よかった……。

「……性格悪っ。」
ボソッと薫くんが低い声でつぶやいた。 

「なに?どうしたの?」
 
薫くんはスマホをいじってるようだ。

「猊下からメール。4月から藤やんは京都に引っ越すから、って、わざわざ俺にゆーて来た。」

「……4月……。マジ?」
まだ何も聞かされてない当事者の藤巻くんは、ぽかーんとしていた。

すごいなあ。
トップダウンって、こういうことなのかな。

坂巻さんのゴーサインで全てが動き出す。

幸せに向って……。



その日、帰宅するとパパに怒られた。

「今日ね、珍しいお客さんが来られたんだけどね……さっちゃん……薫くんは、まだ小学生なんだから、もう少し節度を持って……だなあ、」

「……パパ?何の話してるの?」

聞いてられなくて、私は途中で遮った。

怒りがふつふつとわいてくる。

節度って!
何がどうだってゆーの!

そんな、恥ずかしいことも、エッチなこともしてない!
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