小夜啼鳥が愛を詠う
……てか、私は薫くんが好きって自覚したばかりで、薫くんに至っては私が未だに光くんのことを好きって思ってるのに。
 
むーっとしてパパを睨む。

パパは、息をついた。

「動画。さっちゃんと薫くんが手をつないで走ってるところ……2人とも、腹が立つぐらい幸せそうな顔してたわ。さすがに未成年略取、とは言わないけど……よからぬ噂が立って傷つくのはさっちゃんだから、気をつけたほうがいい……と、言われた。」

それってもしかして……

「坂巻孝義さん?パパのお店にも寄ってったの?……光くんに会いに?」

パパはばつが悪そうにうなずいた。

「……イケズだ。絶対、イケズだ。仕事でいい子ぶりっこしてたストレスを薫くんと私で晴らしてるんだ……。」

「こら。失礼だよ、さっちゃん。……まあ、確かにイケズを楽しんでそうだったけど、言ってることは正しいよ。光くんからも薫くんにそれとなく注意してくれるみたいだけど、さっちゃんのほうが年上なんだから、周囲に誤解を与えないよう、気をつけなさい。」
 
パパはそう締めくくったけれど、私は納得できなかった。


明日と明後日は、ボランティアに行かない日だ。
薫くんは、また中学サッカー部の練習に混じるんだろうか。
プロの選手が来られるのは、お正月って言ってたっけ。

……観に行くのって……やっぱり、ダメかなあ。

薫くんに逢いたいなあ。

パパのせいで、何だか、すごく不安になっちゃった。
もう、薫くん、手をつないでくれなくなるのかな。
……淋しい……。



結局、翌日は我慢した。

でも、その次の日には、もう限界!
明日のボランティアまで待てない!

「明田先生のアトリエの大掃除してくる。」
と、もっともらしい大義名分を振りかざして、私は家を出た。

……あれ?
御院さんだ。

今日は、お休みなのかしら。

お一人で、それも普通に歩いてらっしゃるのが珍しくて、私は何となくその後ろ姿に見とれた。

御院さんは、この辺りの地理にあまり詳しくないらしく、地図らしき紙を何度も見ながらキョロキョロしてらした。
 
「あの……、どこか、お探しですか?御案内いたしましょうか?」

背後からそう声をかけると、御院さんはぎくりとしたように振り向いた。
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