小夜啼鳥が愛を詠う
「そっかあ。彼氏じゃないんやけど。……そっかあ。」
ついついため息がこぼれた。

本当に光くんと両想いなら、女子の嫉妬にも耐えられそうだけど……今は理不尽だわ。

「違うの?」

椿さんの向こう隣の子がそう聞いてきた。
眼鏡の似合うかわいい子だ。

「うん。私の片想い。」
そう答えたら、何だか気恥ずかしくなってしまった。

「……赤くなった……えー、かわいい。」
眼鏡の子がそう言って、突然私をガン見しながら、鉛筆をすごい勢いで走らせ始めた。

え?
なに?
なにやってるの?

てか、シャーペン主流の風潮の中、彼女が使ってるのは見たことないけど高そうな鉛筆。

「はい。プリント行き渡ったかぁ?まずは、自己紹介。俺からな。美術を教えてる明田(あけた)です。独身。彼女と美術部員随時募集中。」

担任の先生は、明田先生と言うらしい。
美術部の顧問の先生なのかな。
なんとなく、似合わないかも。

「ラッキー。明田さんや。」
どうやら私の似顔絵を描いてるらしい眼鏡の女子が、そうつぶやいた。

……知り合いなのかな?


順番に、自己紹介が始まった。
私が立ち上がると、あからさまに教室の空気が変わった。
男子が色めき立ち、女子が舌打ちしたり嫌な顔をする。
雰囲気に飲まれて、私は出身校と名前しか言えなかった。

「それだけか?趣味でも特技でも何でもアピールしていいぞ。」
明田先生にそう言われて、私は困ってしまった。

趣味も特技も特にない。
お料理は好きだけどママほどの熱意はないし、勉強をいくらがんばっても光くんほどの記憶力も理解力もない。
光くんの相手をつとめたくて、連珠や囲碁も勉強してるけど、足元にも及ばない。

「……何も……ありません。」
小声でそんなことしか言えなかった。

口をつぐんで座る。
自己嫌悪でいっぱい。

私は人見知りでも、引っ込み思案でもない。
でも、女子の憎悪が怖い。
これ以上目立って反感を買いたくない。

息さえもひそめて、じっとうつむいていて……ふと気づいた。

光くんも、同じなのかな。
あんなに頭がよくて、あんなに綺麗なんだもん。

私は羨望でいっぱいだけど、誰もが好意的というわけではないだろう。
感受性の強い光くんだから……ほんのわずかでもヒトのマイナス感情に当てられると、もうしんどくなっちゃうのかもしれない。

……それに……ごくごくたまにだけど……光くんの本当のパパの彩瀬さんが降臨しちゃうと、私たちでもフォローできないことも……なきにしもあらずというか……。
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